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アメリカの現実⑯「過去のデータから未来を予想するAIには、バイアスが存在する」

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Alphabetに勤務していたAI研究の第1人者の解雇問題は、私に将来の社会への不安をもたらした

2020年12月、Alphabetに勤務していた「倫理的な人工知能(AI)研究の第1人者」のTimnit Gebru 博士が、退職した(彼女は解雇されたと明言している)。

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解雇理由として、彼女は、自分の研究論文撤回を拒否したことと、女性社員昇進に関する彼女自身のフィードバックをAlphabetが無視したと同僚へのメールで批判したことを、挙げている

その後CEOのSundar Pichaiは、文書で「博士の退社に対する反応は、はっきりと聞こえている。それは疑念を植え付け、われわれのコミュニティの一部がGoogleにおける立ち位置を自問するに至った」と指摘し、「非常に申し訳なく感じており、信頼回復に努める責任を受け入れたい」と述べている。

私は、今後の私たちの生活に与えるAIの影響力を考えると、この件を目にして、背筋が、ぞくっとしたことを思いだす。

Gebru事件は「経営者が職場で聞きたくない問題、差別が常に存在する」ことを示唆する

Gebru博士は、AI倫理研究分野のリーダー的存在であり、AI関連の黒人団体「Black in AI 」の共同設立者でもある。彼女は「顔認証が女性や有色人種の顔を認証する上での正確性は他より低く、顔認証の使用はこうした人への差別となりかねない」と指摘する、革新的な論文を共同執筆したことで有名な人物でもある。

彼女が解雇されてから、Alphabet社員2,500人以上と学術・産業・市民社会の支持者4,000人以上がGebru博士を支持する請願書に署名した。請願書は、「Gebru博士は、類まれな才能を持ち大きな功績を収めた貢献者としてグーグルから受け入れられるのではなく、保身的な対応や人種差別、Gaslighting(相手が自分の考えを疑うよう仕向ける心理的策略)、研究の検閲を受け、最後に報復として解雇された」と主張している。

2020年のLeadership IQによる5,778人の米国成人対象の調査「Many Leaders Don’t Want To Hear About Discrimination In The Workplace(多くのリーダーは、職場での差別の話を聞きたくない)」でも、職場で自分への問題を起こすことなく常に報告できると感じていた黒人社員はわずか13%だった。また、職場での差別に関する懸念を報告すれば、経営陣は常に解決のため意義のある行動を取ってくれると答えた女性はわずか23%だった。

多くの企業は「聞く姿勢」を見せるが、企業はその際に自己弁護や正当化を試みる。

経営者にとって、職場における差別問題や懸念を聞くことは容易ではなく、尚且つ時には不快な気分になる。これは「認知的不協和」、即ち心理的に相反する2つの考え(或いは態度や意見)を持つ時に生じる不快な緊張状態を創出してしまうからである。

私は、当初AlphabetのCEOのPichaiも非白人であるのに、なぜGebru博士の見解を理解出来ないのか?と一瞬考えたが、シリコンバレーにおけるアジア系非白人は、マイノリティとは言い難い点から考えれば、これは納得がいった。Gebru博士の場合は「黒人+女性」というマイノリティの比重は乗数となり、尚且つAIという今後社会において最も重要な影響力を及ぼす領域で、「女性と有色人種への差別にもつながる、顔認証の不正確さの指摘」は、Alphabetにとって、かなり耳が痛い話である。

Alphabet社員たちのGebru事件以降の急速な動き

2021年1月Alphabetでは、シリコンバレーでは非常に稀な動きであるが、労働組合が結成された。現在社員200名以上が「Alphabet Workers Union」に加入した(Alpabetの社員は13万2,000人以上)。Communications Workers of America Local 1400(米国通信労働組合の1400支部)と提携し、全社員及び契約・派遣社員を対象とする初の労組で、年間の基本給とボーナスの1%を組合費として、毎年支払う組合員によって支えられる。組合の目標は、団体交渉やAlphabetによる正式承認ではなく、「キャリアへの影響に直面することなく、社員が自社について発言できるようにすること」だという。

Alphabetは長年、社員の開かれた議論を促してきたが、一方では社員間の政治的な会話を抑制する狙いのルールも導入している。こうした状況下で、社員の不満は増加し、2018年には数千人の社員が、セクシャルハラスメントの加害者を昇進・保護する職場文化があると訴え、抗議運動に立ち上がった。組合員は、Alphabetが自社に批判的な社員に報復している、差別や嫌がらせの苦情にほとんど対応していないと指摘する。また今回の組合結成の大きな理由の1つとして、Gebru博士の解雇も挙げられており、積極的な行動に打って出ない限り、社内改革は行われないことを実感したという。

Gebru博士に続いて、またしてもAI倫理研究の女性が解雇される

2021年2月19日、Alphabetは、AIの倫理研究の共同責任者だったMargaret Mitchellを解雇した。Alphabetによると、解雇理由は「ビジネス上の極秘文書と他の社員の個人情報をひそかに流出」させたためであるという。但しこれは、彼女はGebru博士を不当に扱った証拠を探っていたために、解雇されたと、言い換えることが可能である。

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Mitchellは「私は自分の立場を行使して、Googleに人種と男女の不平等に関する疑念を提起しようとした。こうして解雇されたことに呆然としている」と、Finantial Timesの記者に語っている。

Alphabetの多様性に関する最新の報告によれば、社員のうち女性は3分の1以下で(2019年よりもわずかに減少)、米国の社員の黒人が占める割合は5.5%である(米国人口の黒人比率は13%)。

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Alphabetに限らずハイテク企業の人種及びジェンダーの不均衡は常に指摘されている事柄である。但し今後は、労組結成に見られるように、株主以上に「モノ言う社員」の圧力は増大する可能性が高い。さらに、これは人種やジェンダー以外に、労働者の権利や企業の環境問題の取り組みなど、広範囲な課題が取り上げられる傾向にある。

AIに倫理的で公平な判断をさせるためには、多くの人間の力が必要

Gebru問題は、AIが持つバイアスの問題に、人々の注意を向けさせた。膨大な数の過去のテキストから学習するAIは、人種やジェンダーに関する過去のバイアスを取り込んでしまう。より公正な判断をするAIの開発には、時間と資金を犠牲にしてでも、人間のチェックを介在させる必要がある。

政治科学者Virginia Eubanksの2018年の著書『Automating Inequality: How High-Tech Tools Profile, Police, and Punish the Poor(自動化する不平等)』では、医療や給付金、治安関連の業務で用いられるAIシステムは、官民問わず、偏ったデータと人種的・ジェンダー的なバイアスに基づいて、不安定で有害な判断を下すという。また、AIシステムは判断に至るまでの思考回路がブラックボックス化されているため、たとえ判断結果が間違っていても、それを確認したり、異議を申し立てたりするのが難しいという。

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AIは過去から未来を予想するため、バイアスが必ず存在する。この危険性を我々は認知すべきである

Gebru博士が論文で非難したツールは、Google検索システムで検索結果が表示されるまでの過程において、重要な部分を占める。このシステムは、我々の生活を効率的で便利なものにしてくれる。但し、AIは人間の活動や発言について莫大な量のデータを調べ上げて、そこからパターンや相関関係を見いだそうとする。いわば、過去の人間の動きから、未来を予想するという仕組みである。

これは誰もが思い当たるように、膨大な人種やジェンダーに関するステレオタイプ、偏見、差別が過去の我々の言動に存在する以上、それらのバイアスは当然AIに反映される。じゃあ、これを取り除くために、人間の介入や判断を取り込むとすると、どうなるか? 1つ目はその人間の倫理観念が本当に適性であるかどうかを誰が判断するのか? 2つ目は人間の介入によってデータ処理速度は低下してしまう、3つ目は費用がより大きくかかる、といったことが問題として、生じる。

この辺りを考え始めて、私はアタマを抱えてしまった。特に1つ目の「誰の倫理観念を適正と判断するのか?」が、重しのようにのしかかる。

2015年6月28日、NYのプログラマーがアプリGoogle Photoにアップロードしたガールフレンドとの写真(2人は黒人)が「ゴリラ」にタグ付けされた話は有名である。「ゴリラ」に限らず「イヌ」とタグ付けされた例もあり、その後、Googleは「ゴリラ」のタグの削除やキーワードでの検索停止などの対応策を表明したが、抜本的な解決は今もされていない。

コロナ禍の米国において、特にコロナ発生源として中国が、前大統領の言動で煽られて、最近はアジア人へのヘイト発言や行動も事件化するほど目に付く。AIのバイアス問題は、様々な課題を私たちに突き付けてくるが、少なくとも、このAIのバイアスを持ちやすいメカニズムを理解して、多く人達がより偏見や差別のない言動をしていくしかないと思う。そのためにも、あらゆる場所における『Diversity &Inclusivity』が重要となり、企業内ではこの問題にしっかり立ち向かう必要がある。

困難な問題であるけれども、早急に解決しなければならない、非常に切迫した問題でもある。未来のために、今手を打つしかない。

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アメリカの現実⑮「森発言に関する一考察:ステレオタイプな考えは、いつの間にか偏見や差別へと変容する」

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JOCの森喜朗元会長の発言・辞任といった一連の動きと論議は、実に日本的な流れで、相変わらず「不思議な国ニッポン」が存在していることを、世界に示した。私はこの騒動に関して、当初から女性蔑視という事よりも、森元会長の「一般論ですが」という言葉に、非常にひっかかりを覚えた。なぜひっかかったかを書いておきたい。

「常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう」

Albert Einsteinは数々の名言を残しているけど、私がここで言いたいことを彼は語っている。

"Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen(常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう)"

ここでいう、18歳というのは「大人になるまで」という意味で、これが16歳でも20歳でもよくて、その人が大人になったという自覚が来る時を、ここでは「18歳」と表現してる。

多くの人達は、社会が容認しているという前提で「常識」という曖昧な表現をしばしば使う。但し、これはある一定の社会で通じる物差しで、当然のように歴史的背景、文化、社会制度が異なれば、その固有の「常識」は通じない。

英語の「Common sense」という語彙の成形を見ると、意味がすーっと入ってくる。「Common(共通)のsense(感覚或いは漠然とした感じ)」という単語で成り立っている。日本語の「常識」という漢字のように「常」という意味は、この「Common sense」にはない。即ち社会の人達が共通な感覚として、漠然として抱いているのが「Common sense」で、それは帰属する社会によって異なり、さらに時代によって変化する。

Einsteinが言いたかったことは、「Common sense」と呼ばれる曖昧な感覚を後生大事に抱えて生きていると、それは結果として「Prejudice(偏見)」に変容してしまうというコトだと思う。但し、これも英語の単語の成形から見ると、「偏見」というよりは「先入観」という日本語の方が適格であるように思う。「Common sense」という曖昧な共通の感覚を持ちながら、相手や物事を見たり判断したりすると、それは「偏った見方(偏見)」になる。

そして当然のごとく、「偏見」も「常識」と同様に、その人が生きている時代と場所によって異なり、また変化していくものである。

私の喉にひっかかる「一般論」という小骨

森元会長が発言した「一般論」という言葉は、私の喉に刺さった小骨だった。「一般論」という言葉は、Einsteinが指摘した「Common sense(共通の漠然とした感覚)」に置き換えられるからである。「一般論」とは、その人の人生における「Prejudice(先入観)のコレクション」であって、誰もが納得できる普遍的なものではなく、往々にしてデータ的な裏付けがなされていない。

「女性がたくさん入っている理事会は時間がかかる。(中略)女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困る。」「女性っていうのは競争意識が強い。誰か一人が手を挙げていうと、自分も言わなきゃいけないと思うんでしょうね。それでみんな発言されるんです」

また、この発言は2月3日に、「女性理事を40%以上にするというJOCの目標に関して質問を受けた」時に出たものである。そのコンテクストを考えると、彼は何らかの答えで、この質問をかわさなければならず、「一般論」という多くの人達が共有している論理という表現をかざして、防衛した。

仮に森元会長が、「これは私個人の見解ですが」と断って、例の発言をしたならば、私は、あえてここで、彼の発言を取り上げなかったと思う。但し、コロナ禍で開催が危ぶまれているこの時期、日本オリンピック委員会会長という立場で、この発言はありえないと思う。当然のように国内外を問わず、様々な論議が巻き起こるのは、必然である。

研究結果が示す森発言の誤り

当初この森発言への反応は、海外の方が早くまた強い批判が巻き起こった。私が取り上げたいのは、Forbesの心理学とジェンダーに関する記事をカバーする記者が、発言の翌日2月3日に指摘したポイントである

彼女は、森発言の2つのポイント「女性はお喋りである」、「女性は競争意識が強い」という点は、過去の調査研究に基づくデータによると事実とは異なる、ステレオタイプな発言と一蹴している。

1) Deborah JamesとJanice Drakichの研究者によると、男女の話す量を比較した56件の先行研究で、女性が男性より話す量が多いと結論づけた研究はわずか2件で、逆に男性の方が発言が多いことを示した研究は34件あった。調査によれば、人の発言が多いかどうかは、性別よりも地位に関係している(発言が多い人は高い地位に就いていることが多い)。さらには、女性が発言をすると、主張が強すぎるとして反発を生むこともある。学術誌Administrative Science Quarterlyに掲載された2011年の論文によると、頻繁に発言する役員が男性だった場合は能力が高いとみなされる一方、女性の場合は能力が低いとみなされる傾向があった。

2) スタンフォード大学とピッツバーグ大学の研究チームによると、「男性の方が競争に対する意欲が高く、誰かと競うことでパフォーマンスが上がることが示されている。男性は競争好きなだけでなく、自分の能力に過剰な自信を持っているため、競争を追い求める傾向にある。」

彼女は、森会長の事実と異なる女性への見解は、彼に限らず多くの人が無意識に思っている「女性はお喋りである」というステレオタイプな考えが一般に根差している点から来ることを指摘している。

社会が「偏見」を容認・黙認していると、それは「差別」へと変容する

こういう発言を、個人の失言として放置或いは黙認してしまうと、ステレオタイプな考え(=偏見)が助長されて、いつの間にか人々の意識下にもぐりこんしまう。そしてそれは「差別」といった形に変容して、思わぬところで、大きく顕在化する可能性が高い。これに関しては、過去自分のブログで何度も触れているので、ぜひ読んで欲しい。

米国には、人種民族、性別、年齢、性的志向性、宗教など、様々な「先入観=偏見」が存在する。理由は、多民族国家であり、移民によって成り立っているという、米国の国家としての特性にある。そのため、国民全員が合意をとれるような共通の感覚は、殆ど存在しない。

だからこそ、過去4年間、前大統領は自分にとって有利になるように、平易で誰もが分かる悪意のある言葉で、米国民の違いをことさら掻き立て、ガソリンをまき散らして、偏見や憎悪に火をつけた。その結果が、1月6日の議会占拠暴動という、米国民主主義の崩壊をも感じさせるほどの出来事の創出である。

日本は、勿論米国とは大きく異なり、顕在化する「偏見」と「差別」が見えにくい社会である。でも顕在化していないだけで、当然のように「偏見」と「差別」は存在し、事実に基づかない「一般論」でそれが助長される可能性を常に秘めており、また助長され続けている。

「異なる者や考えへのRespect(尊敬)」ということを話したい

私は「女性差別」とか「老害」などという言葉を使っていないし、「Political correctness」などといった意識もなく、物事を常にニュートラルに捉えているつもりである。但し、私から見ると、今回の一連の動きには、「異なる者や考えへのRespect(尊敬)」というものが欠落しており、その結果、それから受ける多く恩恵を見逃しているという気がする。この「異論の持つチカラ」に関しては既にコラムで書いたので、ぜひこちらも読んで欲しい。

ここであえて再度「性差」に関する別の調査を持ち出して「異なる者や考えを受け入れるとどんな恩恵があるか」を記す。これは「女性役員の存在は、男性CEOの自信過剰を抑制する」というHarvard Business Reviewの記事からの抜粋である。

役員会に、女性役員がいることのメリットの一つは、視点の多様性が広がることである。これは取締役会における審議の質の向上を意味する。複雑な議題が絡む場合は、このメリットがいっそう顕著になる。なぜなら複数の異なる視点があれば、より多くの情報が得られるからである。

さらに、女性役員は男性役員に比べて(多数派への)同調や迎合をする傾向が低く、独自の見解を表明する姿勢が強い。男性同士のネットワークに属していないからである。したがって女性メンバーがいる取締役会は、企業戦略の意思決定の場で、CEOに異議を唱え、より広範な選択肢と賛否両論を検討するように迫る傾向が強く、それによってCEOの自信過剰が抑制され、バイアスの可能性をはらむ考え方の是正につながる。

森発言の後にこの記事を読むと、実にアイロニカルな調査結果に思える。また別の調査でも、「ROIにおいて、女性役員比率が最も高い企業は、女性役員比率が最も低い企業より、66%も好結果を創出する」というデータもある。

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「偏見」や「ステレオタイプな考え」を、取り除くためには、自らが発言し行動し証明しないと始まらない

勿論、多くの人達の中には、どういう基準で「偏見」或いは「ステレオタイプ」と規定するのか?、それこそ、そちら側の「偏見」だ、或いは「Political correctness」だと、反論する人もいると思う。これは確かにある種センシティブな問題で、誰が発言するかによって、簡単に「偏見」のラベルが貼れる可能性がある。但し、だからといって、容認・黙認していたら、いつまでたっても「偏見」が蔓延り、結果恐ろしい「差別的な行動」を誘発してしまう。

私が26年前米国移住した時、ビジネス経験豊かな米国女性から「日本では苦労したでしょう」と言われて、私は「はて、何のことだ?」と思った。当時の日本のビジネス社会は、男性優位で女性はお茶くみぐらいしか仕事ないと、世界中の人達に思われていた。また彼女達は、日本出張の時に日本男性達の態度に非常な不快感を感じた経験もあった。そんな彼女達は「そこでよくビジネスキャリアを構築した」という点で、私のキャリアを見て驚いた、ということに、私は後から気付いた。もう四半世紀も経っており、法的な平等性は整備されているのに、なぜ今だに日本は変わらないのだろう? という素朴な疑問を、諸外国の人達は感じていると思う。

私が思うことは、諸外国にやいやい言われたからと言って、日本社会の「一般常識」はそんなに簡単に変わらない。「変わらない」というのは、「変える意思がないから変わらない」というコトに他ならない。根本的な問題は、アクティビストだけではなく、一般の日本の女性達が、森発言をどう受け止め、それに対してどう考えて、どう発言・行動していくかだと思う。当事者の意思がない限り、変化は起こらない。

私が、22歳から38歳まで在籍した日本のビジネス社会で、稀有なケーススタディとして、キャリアを構築できたのは、「この閉鎖的な仕組みを変える意思」が自分にあったからである。22歳の私は「お茶くみや雑巾がけ、Faxのない時代のFax代わりとして、書類をクライアントに届けながら、毎日仕事が欲しいと上司に頼み込み、仕事を獲得していった。そしてもらった仕事を人の倍以上働きながら、実績を積んでいった」。私は、当時の「女性は2年勤務して寿退社(結婚のために退社する)」というステレオタイプの考えを変えて、男性と同様に(私の本音は彼ら以上に)キャリア構築するという、強い当事者意識を持って、変革を起こしたと思う。

日本の一般の女性達が「女性への偏見」を変えるべく発言・行動するのを、私は待っている。当然起こるし、起こりつつあると期待している。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉜「TikTokで蘇ったSea Shantyが世界をつなぐ」

2021年のアメリカは、史上稀にみる民主主義の危機を国家として迎え、現職大統領による扇動でクーデターともいうべき議会占拠の暴動が起きてしまった。私達この国に生活する人間にとって、今年はまだ16日しか経っていないという事を信じるのが難しいぐらい激動の日々であった。それに関しては、もう少し状況が推移し解明された段階で、まとめて書こうと思っている。今日は新年らしく爽やかなStoryから語りたい。

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Sea Shanty "Wellerman"の歌声が鳴り響く我が家

TikTokのPhenomenonとなったSea Shantyは、CNETの1月12日の記事によると、#seashantyのハッシュタグがつけられて、ヴィデオの再生回数は8,900万件を突破し、Google Trendも"sea shanties"の検索回数が過去最多に達したとTweetした。Spotifyでは12月末以来プレイリストは、1万2,000回を超えている。

以下は世界中がつながっていったSea Shantyに関するTikTokのTweetsである。

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こういう風に世界中がつながっていった

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夫も私もSailor(船乗り)なので、このTikTokでのバイラル化以前から、過酷な肉体労働を強いられる船乗りの労働歌のSea Shantyはよく知っていた。SF ベイエリアに住んでいた頃は、マリーナにあるQuinn's Lighthouseというレストランでライブ演奏を聴き、今はSan Francisco Maritime National Park Associationに寄付をしながら世界中の人達が毎月Zoomで参加するSea Shantyのライブ演奏を視聴していた。

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2週間ぐらい前に自宅でJazzercise(音楽を使った有酸素運動)をしていたら、夫のオフィスからSea Shantyの"Wellerman"が綺麗なコーラスとして聴こえてきた。

夫のオフィスに駆け込んだら、彼は嬉しそうに「TikTokでSea Shantyがバイラル化している。音楽的才能のある世界中の若者達がTikTokのデュエット機能を用いて、自分の声を重ねてアップロードし、"ShantyTok"というトレンドが発生している」と説明し始めた。

今まで私たちが見聞きしてきたShantyは、多くは各国のシニア層が様々なStoryをアカペラのShantyで語るということだったので、私はかなり驚き、夫ともども19世紀の船乗りの歌が現代に蘇ったと喜んだ。

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WikiによるSea Shantyの説明 

奇妙なソーシャルメディアであるTikTokのユーザ数は急増中

言うまでもなく、TikTokは、何でもないものを、物凄い勢いでバイラル化するチカラを持つ、奇妙なソーシャルメディアである。企業が意図的にマーケティングの一環としてコンテンツを広げようとするより、何でこれが?と思うようなものが、意外なコラボレーションによって発展的な展開が得られる。

勿論中国政府による関与の危惧から、2019年12月米国軍隊でのTikTok使用禁止、Trump政権との対立、MicrosoftやOracleの買収劇など、ビジネス的な話題は絶えない

但し、米国におけるユーザ数は急増しており、特に若年層ではすでにInstagramを抜き去りSnapchatに迫る勢いである。

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以下の表が示すように、2020年Q1のTikTokのダウンロード数は3億1500万にも達して、急増している。

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Sea Shantyとは?

以下はWikiによるSea Shantyの説明である。

Shantyは19世紀中頃に米国の商船で、異なる民族から構成される労働者を一致団結させるという目的のため使われた。少ない乗組員でより厳しいスケジュールの中で大きい商船を操業しなければならない時、歌によって労働者の間に連携が生まれ、効率よく働かせることができた。その後Shantyを歌う習慣は、帆船が発展した時代を通して、次第に世界の至るところで見かけられるようになった。

Shantyの起源は、イギリスや他の国々の沿岸で伝統的に歌われていた労働歌にあり、アメリカ南部で綿を担いで船に載せる作業中に歌われたような、アフリカ系アメリカ人の歌の影響を受けている。水夫によって親しまれた当時のポピュラー音楽(吟遊詩人の歌、人気の行進曲、陸のフォークソング)がレパートリーに選ばれ、船を操作するための様々な労働作業に合うように音楽的形式を変えられていった。アンカーを持ち上げたり、帆を用意したりする労働作業では、押したり、引いたりするために集団で協調して作業する必要があったためである。特徴はコールアンドレスポンスであり、ソリストと残りの労働者の間で演じられた。リーダであるソリストはShantymanと呼ばれ、その小気味良いセリフと、ウイットの効いた詩、力強い歌声を高く評価された。

19世紀末の蒸気船への切り替えと船上作業への機械の導入によって、Shantyの実用的価値は徐々になくなっていった。20世紀前半には労働歌としての役割は求められなくなった中で、Shantyに関する情報はベテランの水夫や民俗学のコレクターによって保存されてきた。特に1920年代から、商業音楽、大衆文学、その他メディアは、シャンティに対する陸の人々の関心を触発した。労働歌としての役割から離れた、これらの現代的パフォーマンスは、文化的、歴史的芸術としての新しい文脈を提供した。

Wellermanは、19世紀のニュージーランドの船員たちの労働歌で、歌詞は、過酷な肉体労働に明け暮れる船乗りたちが、酒を積んだ補給船を心待ちにしていることを描いている。

以下は今回のトレンドの源となったスコットランドの郵便局勤務の26歳のNathan Evans に関するTweetである。

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蘇った現代のSea Shantyを楽しもう!

コロナ禍や米国議会占拠暴動といった予想もしなかったイベントに直面する人々は、その不安と恐怖を拭い去るかのように、TikTokという奇妙なプラットフォームを使って、世界中の人達と一緒にコラボレーションを始めた。異なる背景の船乗りが1つの労働を連携するために、歌ったShantyは、2021年という、未だに明日がどのようになっていくかが読み取れない世界で、歌を通じてつながる喜びを与えてくれたようである。

船乗りの私としては実に嬉しく、今もWellermanを口ずさみながら、この原稿を書いている。何だか自然に広い海原で航海している気になり、連携のエネルギを感じるのは私だけなのだろうか? と思う。

まずはみんなでSea Shantyを歌いながら、2021年の海原に出かけよう!


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コロナ禍でのアメリカ生活㉛「コロナ禍は我々をタイムマシーンに乗せた」

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今年もあと2日で終わる。何を今年は考えたか?と自問自答しているところ、WSJの記事が目についた。その中でも以下のShopifyの VPのLoren Padelfordの言葉は正鵠を得ている。

“Covid has acted like a time machine: it brought 2030 to 2020,” said Loren Padelford. All those trends, where organizations thought they had more time, got rapidly accelerated.(コロナは、まるでタイムマシンのように2030年を2020年に持ち込んだ。まだ時間がかかると思われていたこれらのトレンドが、今年一気に加速した)”
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確かに今年1年は「個人及び社会において、10年分のデジタル化が進み、一気に生活が2030年レベルに到達した」と言える。4月の娘の結婚式を皮切りに、夫の父親の誕生パーティ、家族のReunion、選挙候補者との質疑応答、自宅が属するコミュニティ・ミーティング、姪のBaby Shower、クリスマスパーティなど、全てをZoomで行い、下は姪のお腹にいる赤ちゃんから、上は89歳の父親まで、当たり前のようにオンラインヴィデオで会話している。私達夫婦は、娘の夫側の家族と初めてZoomで顔を見て話し、夫の父親を含めて80代の親戚は毎週日曜日はZoomによる教会中継に参加している。

私は自宅で週に5日間毎朝ストリーミングによるエクササイズを行い、モバイルによるオンラインバンキングは当たり前になり、過去1年間一度も現金を使わず(非接触)、法的な文書や契約書もeサインで完結している。これは昨年までは中々想像できない浸透度で、オンラインによる消費行動や社会生活は、まるで10年前からやっていたかと思わせるほど、自然に生活に馴染んでいる。

仕事面では、25年間の滞米生活で初めて日本を含めて一切の海外出張がなく、更に飛行機に乗ったのはパスポートの更新でコロラドの日本領事館に行った時のみ。またその日も日帰りだったため、1年間一度も自宅以外で宿泊しなかった。日本のクライアントとのミーティングはオンラインヴィデオとなり、セミナーも全てオンラインで実施した。このデジタル化は、様々な利便性を私の仕事にもたらしている。

それまでは、私が日本に行かないとミーティングやセミナーが実施できないという慣習があったが、今年は私の出張スケジュールに関係なく、気軽にいつでもできるようになった(日米は時差があるので、米国時間の夜中とか朝方にセミナーをやる場合があるのが、ちょっと難点)。

さらに「ひさみっと」と呼ぶオンラインコミュニティを立ち上げて、毎回リアルタイムヴィデオで、ゲストとディスカッションするという中身の濃い日米間のコミュニケーションも可能となった。

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また事務的な面では、請求書は郵送ではなく、eサインをしてメール添付で送れるようになり、クライアントサイドのデジタル化も急速に早まった。

パンデミックが加速化させる「Asset light(資産軽量化)なビジネス」

2020年はビジネス面においては、投資家の資金が「Asset Light(資産軽量化)」のビジネスモデルの企業(Amazon、Carvana、Airbnbなど)及び、これらのモデルにインフラを提供する企業(Zoom、Microsoft、Shopifyなど)に流れ込んだ。デジタル時代においては、当然のように産業機械や工場などの有形資産よりも、アイデアやR&D、ブランド、コンテンツ、データ、人的資本といった無形資産が価値を生む。

この傾向はGoogle、Facebook、Amazonのような巨大プラットフォーム企業の成長に顕著に現れていたが、今年はパンデミックでビジネス上のやり取りが対面からバーチャルに移行し、一段とその流れが強まった。企業は今やオフィススペースや出張にかける費用を縮小し、クラウドコンピューティング、共同作業ソフトウエア、物流管理にかける費用を増額している。

デジタル化は、100年前から進行するプロセスの次のチャプター、即ち「Dematerialization of the economy(経済の脱物質化)」を意味する。農業から製造業に主役が代わり、やがてサービス業へと移行したが、それに伴い、有形物や労力に由来する経済的価値の割合は縮小し、情報や頭脳に由来する価値の割合が増大した。

局地的な疫病であったコロナは、パンデミック化し、全世界に同時に莫大な影響を与えて、デジタル化を半ば強制的に世界中に強いた。言い換えると、コロナ禍は「Dematerialization of the economy(経済の脱物質化)」のAccelerator(加速装置)の役目を果たしたことになる。

こうした流れの良しあしを、私はここで言及するつもりはなく、ただ確かなことは、この潮流が今後も継続していくという点だけは触れておきたい。

「出来ない」というExcuseはもう通用しない

何か新しいことをやる場合、「出来ない」という言葉を使う人がいるが、これを翻訳すると、「新たなことをしたくない」という意味になる。理由は、「失敗を恐れる」、「新たに学ぶことに手間暇かけるのがいやである」、或いは「既存権益を守りたいから」といったことが挙げられる。

但し2020年を経験した私たちには、もうこの「出来ない」というExcuseは通じない。ワクチン投与が始まった今でも、莫大な人達がワクチン接種ができて、予防が確立するまでには相当時間がかかり、その間にもコロナの変異種が生まれるなど、現状が2019年当時に戻ることは考えられない。感染を広げないためにも、「非接触」を中心とする生活は今後も継続していくと思う。

2030年の世界にタイムトラベルした以上、その仕組みの中で、自分にとってより良いやり方を見つけるしかない。時計の振り子は元に戻らず、「出来ない」ではなく「やるっきゃない」という姿勢で、新たなことにチャレンジする、それが2020年を厳しい現実を経た、私達の生きざまである。

私個人として、大好きなセーリングが今年1回もできず、愛艇のKaiyo(海洋)の乗れなかったことが、唯一残念なことといえる。

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それ以外は、このコロナ禍によって、様々な機会が与えられたことに、心から感謝している。家族や友人、さらにクライアントも含めて、離れていても、深い交流が可能となり、実りのある年だったように思う。

365日ほぼ24時間いつも一緒にいた夫に心からの愛と感謝をささげて、明日は2人で静かに良い年を迎えたいと思う。

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アメリカの現実⑭「多様性への模索ーBiden政権が内務長官に初めて先住民族(Indigenous people)の女性を選んだことの意味」

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12月17日、Biden政権は、Interior Secretary(内務長官)に、初めて先住民族(Indigenous peoples)の女性、Deb Haaland(60歳)を指名した。この選択は、内務省の長官という職務を考えると、実に理にかなったものである。内務省は、職員7万人以上を擁する大規模な機関で、連邦政府が承認した578の先住民族の土地を監督している。

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上院で承認されれば、彼女は先住民として初の閣僚となり、しばしば問題が生じる内務省と先住民との関係を変える可能性がある。先住民Laguna Pueblo部族のHaalandは、ニューメキシコ州選出の民主党下院議員(1期目)で、この起用にも見られるように、Biden政権の閣僚やスタッフメンバーの人選は、米国史上最も多様な人達によって構成されることとなる(女性、非白人、カミングアウトしているLGBTQ+など)。

米国に住む先住民族の歴史

今更説明の必要もないぐらいに、元々北米大陸に住んでいた先住民族は、開拓者として侵略してきた白人によって、幾度もの約束の裏切り、強制移住、虐殺など、様々な悲劇的な歴史を経て、現在「Indian reservation(インディアン保留地)」と呼ばれる特別区域に追いやられた。Indian reservationは「居留地」と言われるが、本来「保留地」と表記すべきもので、インディアンの故国として、白人が保障してリザーブした土地という意味である。これには、いずれ「保留」を解消するという意味合いも含まれていた。

白人達は、アメリカ大陸を「開拓」する上で、インディアンとの土地問題を解決すべく、彼らと条約を結び保留地に住まわせるという政策をとり、政府と各部族との間に結ばれた、保留地を軸とした条約の数は371に上る。当初連邦政府はインディアンを閉じ込めるといった考えを持たず、白人による土地の売買や勝手な進入を許されないということを約束していた。またインディアンは保留地を通る幌馬車やカウボーイから、通行料を取っていた。

但し膨張する入植者達の強い要求により、圧倒的な武力を背景に白人側は部族に土地の割譲を迫り、部族は僅かな年金と引き換えに条約を呑まざるを得なくなっていく。Thomas Jeffersonは「インディアン達の意思を無視して白人側が勝手に保留地の土地を買ったりすることは許されない」と述べたが、それは全くの空論となる。

土地を巡る白人とインディアンの争いは次第に激化し、Indian Wars(インディアン戦争)」、「強制移住」、「保留地に入らないインディアン部族は絶滅させる」、「バッファロー絶滅政策(インディアンの食糧及び生活の源だったバッファローは19世紀初頭4千万頭を超えていたが、白人達の戦略で19世紀末には野生では絶滅に近い状態となる)」、「Dawes Act(ドーズ法)の可決(1886年インディアン保留地内の土地を個人のものとして細分化し、不動産化していく法律。この法律の下で部族の莫大な土地は僅かな年金や品物と交換されて(まともに支払われることは殆ど無かった)矮小化されていった)と、あの手この手で多くのインディアンを締め付け、彼らを「Indian reservation」に追い込んで行った。

現在も大きな政治的対立を生んでいる、ノースダコタ石油パイプライン(DAPL)問題

現在でも政府と先住民族の争点は続いている。先住民族の聖地とエネルギー開発を巡り、Obama前政権とTrump現政権の意見が真っ二つに割れた「DAPL(Dakota Access Pipeline)問題」がそれである。DAPLはノースダコタ州からサウスダコタ州を経てイリノイ州につながる全長1886kmの原油パイプラインで総事業費38億ドルにのぼる。パイプラインはミズリー川をせき止めて作った人造湖の下を潜り抜ける構造で、この湖はStanding Rock Siouxs部族の保留地内にあり、先住民は伝統儀式の対象地として神聖視している。さらにこのパイプラインからの汚染の懸念もある。

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2016年11月大統領選挙の直前、Obama前大統領は住民達の請願を受けてルートの変更を命じた。しかしTrumpは大統領就任の翌年2017年2月、元のルートでの建設を承認し、Obama裁定をひっくり返した。これに対して、先住民達を支持する世界の環境団体が同地を訪問、抗議の座り込み活動が長期間にわたって展開された。

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またDAPLへのファイナンスは、日本のみずほ銀行、三菱UFJ銀行を含めたグローバルな主要金融機関によるシンジケート団がローンを提供しており、これも大きな論点となった。こうした反対運動の中で、DAPLは運営会社Energy Transferによって建設が進められ、2017年6月に運行を開始した。

今年の3月ワシントン連邦地方裁判所(コロンビア特別区連邦地裁)は、このDAPLを巡る訴訟で、同計画に承認を与えた米陸軍工兵隊(USACE)による事前環境影響評価の不適切性を訴えた原告の先住民の主張を認め、USACEに調査のやり直しを命ずる判決を下した判事は、USACEがパイプライン建設で付与した許可は、連邦環境法による判断において「概ね適合しているが、先住民にとって『重要な例外』がある場合は、検討の余地を残しておくべきだ」として、潜在的な影響をさらに調査評価することを命じた。追加的な調査・評価の対象として、パイプラインからの原油漏えいを検知するシステムの有効性、創業者の安全管理記録の確認、ノースダコタの冬の期間の影響、漏洩の最悪シナリオの分析(ストレステスト)等である。

この判決に対して、原告の弁護士は「我々はパイプラインが廃止されるまで、訴訟を戦い抜く。おそらく、完全な環境評価は1年か2年はかかる。その間に、民主党の新大統領に交代し、USACEも正しい判断をとることができるようになる」と指摘している。つまり、この判決の意味は重く、大統領選挙で勝利したBiden政権が、事業廃止を求める可能性もあり得る。

インディアンへの強制的な白人同化政策がもたらした悲劇

1950年代から連邦政府の方針としては、部族の意向を無視して「保留地」を解消していこうという方向にある(これは条約違反)。「インディアン」という特別な存在ではなく「アメリカ市民」として納税させ、国民の義務を負わせるという政府の意図のもとで、「インディアン寄宿学校」による強制同化政策により、インディアンの白人文化への同化が進んだ。20世紀初頭からすでに、部族独自の純血性、民族性は薄れ、様々な部族が絶滅認定され、保留地を没収されていった。

この白人文化の同化政策が、実は今のインディアンの各部族の抱える悩みである「失われた部族の文化と伝統への回帰」への重いボディブローとなっている。殆どの保留地は産業を持てず、貧困にあえぎ、部族の誇りも失っていった。保留地で生活する限り、僅かながらも条約規定に基づいた年金が入るため、これに依存して自立できない人々も多く、失業率は半数を超え、アルコール依存症率は高く、健康面でも多くの疾病を抱えている。また、今回のコロナ禍でも多くの感染者を出すといった、厳しい状況下で生活している。

部族の伝統と文化の復活のための動き

彼らはこうした状況下で、自らの文化と伝統の復活を図るべく、徐々に活動し始めている。身近な例としては、私の夫が少年時代、自宅で弟のような存在として、一緒に暮らしたHopi(ホピ族)の男性があげられる。彼はその後成長して、ホピが信仰する精霊Kachinaの人形を作るアーティストとなった。但し、彼は年齢と共に視力の衰えがひどくなり、もう作品は作ることができなくなり、現在はアーティストとしての活動ではなく、ホピ族の伝統的な手法で農作物を作りながら、子供たちにホピの歴史や伝統を教えて、部族の文化保持活動を保留地で行っている。

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今年の夏、彼はアリゾナから子供達(彼は自分の子供はいないが、部族の恵まれない子供を自分の子供のように育てている)と一緒に、わが家に来てひと時を過ごしたが、彼の語るホピ族の物語は、自然への畏敬と一体化の思想が貫かれていて、とても共鳴した。

この写真は、彼の最期の作品で、美術館へのサポートも兼ねて、私たちはこれを今年購入した。これはKachinaのカテゴリの中で、「Runners(4月の儀式にのみ登場しホピの男と競争する)」の「Rattle」と呼ばれるものである。大きさは、台から頭頂の羽飾りまで28㎝という小さなものである。

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Kachinaには、その役割や形態により、以下のようなカテゴリに分けることができる。

Chief Kachinas (リーダー格、重要な役割を持つ) - Aholi, Eototo, Masaw, Ahola, Crow Mother, Chakwaina, Wupamo, Soyal, Grand Mother
Warriors or Guards(儀式を滞り無く行うための観客のコントロールや和を乱す者への罰を与える) - Hilili, Ewiro, Broad Face, Warrior Maiden, Owl, Ahote, Hoote, Whipper, Owango-zrozro
Dancers(最も一般的なグループ) - Hair, Bean, Corn, Deer, Antelope, Humming Bird, Eagle
Runners(4月の儀式にのみ登場しホピの男と競争する) - Rattle, Chili, Pot Carrier, Chipmunk, Kokopelli Mana, Red Kilt
Clowns(儀式を和ませる) - Hano Clown(Koshare), Mocking, Mud Head, Navajo Clown, Hoe

内務長官となったDeb Haalandに期待すること

アメリカの内務省は、国有地や天然資源の保護が主な業務で、傘下には、先住民部族の認定や部族と連邦政府間の連絡調整にあたる「インディアン事務局」がある。Haalandは、議会で先住民コミュニティへの公共サービス改善に重点的に取り組み、コロナ禍関連支援を重視していた。New York Timesに掲載された声明の中で、彼女は「Joe BidenとKamala Harrisの気候政策を推進し、Trump政権が破壊した連邦政府と先住民指導部との関係の修復を支援し、わが国の歴史で初となる先住民の閣僚を務めるのは名誉なことだ」と述べている。

彼女が、Biden政権の内務長官となったからといって、勿論、米国の190万人の先住民族の問題が、一挙に解決するわけではない。但し、全てのアメリカ人の声を聴く耳を持つ必要のある連邦政府に、彼女が入閣することは、歴史の中で、常に置き忘れたように扱われてきた先住民族にとって、大きな一歩と言える。

この広大な北米大陸の土地に先住していた人々は、元々土地に関して「私有」という概念を持っていなかった。彼らは「自然と大地」への畏敬の元で、それに沿った形で長い間暮らしていた。その先住民族の1人が、国政レベルで「環境問題」に関与・注力する時がきた。これは実に理にかなっているように思える。

アメリカという国は、「Diversity & Inclusivity」という、マントラをこれからも、永遠に唱え続ける必要がある。なぜならば、この国は、もともと多様な人々によって構成されて、今後も多様な人々が移住してくることによって、成長し続けるからである。このマントラを可視化できるのが嬉しい。

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アメリカの現実⑬「Diversity of experience:チーム構築において本当に重要なことは経験における多様性」

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Biden政権の様々なスタッフや閣僚候補が発表されるたびに、現政権との違いに驚く。言わずもがなで、現政権の重要閣僚やメンバーは白人男性で多く占められており、両チームは視覚化するだけで、その差異は歴然としている。ここで、はたと気がついたことは、「Diversity & Inclusivity」を語る時、通常、多くの人達は、人種、性別、年齢、性的指向性(LGBTQ+)という多様性を言及するが、それらを超えて、個人がそれまでに獲得した、「経験」に関しての「多様性」はどうなのか?という点である。

Biden政権のコミュニケーション担当のシニアスタッフは、結果的に全て女性となる

大統領のコミュニケーション担当のスタッフは非常に重要な役割を担っている。特にCOVID-19が猛威を振るい、虚偽情報や陰謀論がソーシャルメディアを通じてばら撒かれ、分断が深まる米国において、大統領および政権の真意を正確に分かり易くパブリックに伝えるシニアレベルのスタッフは、人々が納得できるコミュニケーション能力とスキルを持つ人が選ばれるべきである。

米国の企業におけるマーケティング及びコミュニケーション担当は、女性が多くを占める。単純に性差を持ち出してコミュニケーション能力の優劣を語るのは好まないが、子供を育てる性である女性は、集団内の意思疎通がうまくいくように、長い人類史の中で、コミュニケーション能力が、男性より必然的に発達したのかもしれない。今回の大統領選挙で、Bidenを大統領にしたのは、サマライズすれば、女性有権者のチカラと言えるが、その状況を考えれば、そうした女性達への配慮があったにせよ、選択の結果、全員女性となったというのは、自然なことなのかもしれない。

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多様性の中で今後注目すべきは「Diversity of experience(経験における多様性」

この7名は、人種及び性的指向性(LGBTQ+の女性もいる)においても多様性がみられるが、ここで最もポイントアウトしたいのは、7人の女性のうち6人が年の若い子供を抱えるWorking motherだという点である。VPのKamalaにも義理の子供達がいるが、彼らは既に成人している。この6人の小さな子供を持つWorking mothersが、子育てをしながら勤務することは、Working motherの視点及び経験を、ホワイトハウスに持ち込むことを意味する。

これは非常に重要な「Diversity of experience(経験における多様性)」の事例と言える。

また経済担当の重要なポストにつく候補者も、以下の画像が示すように、「経験」において非常に多様性に富んでいる。元Federal Reserve chairのJenet Yellenは女性初の財務長官候補であり、No2の経済担当候補となったWally(Adewale) Adeyemoは、ナイジェリア生まれのアメリカ人で、父親は教師、母親は看護婦、2ベッドルームのアパートメントで2人の弟と妹共に育った39歳の俊英である。

ここでも人種・年齢・性別を超えて、優秀な人材の「固有の経験」をチームに持ち込み、難問が山積みする経済問題を様々な角度から解決すべく「経験の多様性」を生かす戦略が目につく。

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「経験」を加えることで、真の意味での「Diversity & Inclusivity」が実現可能となる

調査によると、女性役員比率の最も高い企業は、女性役員比率が最も低い企業より、ROIにおいて66%も好結果を創出するというデータがある

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この女性役員がいることのメリットの一つは、「視点の多様性」が広がることである。これは取締役会における審議の質の向上を意味する。複雑な議題が絡む場合は、このメリットがいっそう顕著になる。なぜなら複数の異なる視点があれば、より多くの情報が得られるからである。

さらに、女性役員は、男性同士のネットワークに属しておらず(Boy's Clubには入らない、入れない)、男性役員に比べて(多数派への)同調や迎合をする傾向が低く、独自の見解を表明する姿勢が強い。したがって女性メンバーがいる取締役会は、企業戦略の意思決定の場で、CEOに異議を唱え、より広範な選択肢と賛否両論を検討するように迫る傾向が強く、それによってCEOの自信過剰が抑制され、バイアスの可能性をはらむ考え方の是正につながる。

この説明の中の企業を政府・政権に、CEOを大統領に変えれば、如何に「視点の多様性」が政治において重要かは一目瞭然である。この企業内の女性取締役の役割をより拡大させると、以下のような公式が成り立つ。

人種+性別+年齢+LGBTQ++経験(外国生まれ、異なる職種&ライフステージなどEtc.)= 真の意味での「Diversity & Inclusivity」

異論の持つチカラ

悪い決断とは、インテリジェンスやナレッジの欠落で起こるものではない。悪い決断は、ソーシャルプロセス、すなわち他の人の意見や予想可能なグループプロセスといったものによって、強く影響される。ソーシャルプロセス(=常識的なバイヤス)は、我々が気がつかないうちに、我々の考え方をしばしば変えてしまう。

政治やビジネス、さらに人生における決断で、重要なことは、ソーシャルプロセスによって、無意識に大きく影響を与える常識的なバイヤスの力を弱めるために「異論に触れて、そのショックによって想像力を拡張し、予想できないものへと向かおうとする、自らの意思」である。

人は、自由に連想しようと思っても、それほど自由にはなれない。例えば、「青い」という言葉に関して自由に連想しようとしても、答えは「空」や「海」などが出てくる。人間の連想は言葉によって形成され、そして言葉は、ありきたりな表現に満ちている。

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カリフォルニア大学バークレー校心理学者Charlan Nemethの実験によると、「異論」する人を入れた被験者グループは独創的な連想をし始める。「青」を見て「空」、「緑」を見て「草」を思い浮かべる代わりに、彼らは連想を広げ、「青」から「マイルス・デイビス」や「マネーロンダリング」を思い浮かべるようになり、ありきたりな答えばかりが出てくることはなくなった。

「異論」の持つ力は、驚きの力に他ならない。間違った答えが叫ばれるのを聞くこと、つまり青が「緑」と言われるのを聞くショックにより、人は色の持つ意味をもう一度考える。その結果、青を空に安易に結びつけるわれわれの緊張感のない連想は、影を潜める。予期せぬものと出合うことで、人間の想像力が大きく広がる。

質の高い決断とクリエイティビティのある解決のための必要なのが、この異論のチカラである。

これを得るためには、まずチーム内を、人種+性別+年齢+LGBTQ++経験(外国生まれ、異なる職種&ライフステージなどEtc.)= 真の意味での「Diversity & Inclusivity」に満ちたメンバーで構成することが必須である。

どうやら、Biden政権はこの方向に行きそうなので、私は楽しみに思っている。彼らがどういうOutputを出すかを期待したい。

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アメリカの現実⑫「無意識下のステレオタイプな考えをなくすには?」

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私はNational Geographicの記事が好きで、よく読むが最近読んだ記事の中で2つの興味深いものがあった。それは考古学上の発見ですら、科学者の無意識下のステレオタイプな考えによって、事実誤認、或いは事実を無視してしまうという事が起きるという点である。

9000年前の女性ハンターの発見

2018年カリフォルニア大学デービス校の考古学の研究チームは、アンデス山脈で発掘された約9000年前の墓にある人骨を、多種多様な狩猟用の石器、大きな獲物を倒してその皮をはぐ道具などを見て、当然のように優れた男性ハンターと決めつけた。だがその後の分析でその人骨は女性であることが判明し、さらに2020年11月4日付の「Science Advances」の論文によれば、当時南北米大陸では、大型動物のハンターの30-50%は、女性である可能性が明らかにされた。

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我々の先史時代に関する常識は「狩猟は男性、採集と育児は女性」という「伝統的な性別による役割分担」によって支えられている。但しこの19世紀以降の世界の狩猟採集民を調査してきた人類学者の記録に由来するものが、このペルーの発掘及び最新の研究で、必ずしも先史時代には当てはまらないことが証明された。言い換えると、このペルーの人骨以外にも、「女性の骨格に狩猟の痕跡があったり、狩猟道具と一緒に埋葬されていたりする」事実は、過去多く存在していた。しかし考古学者は、ステレオタイプな男女の役割分担の考えに縛られ、事実を無視、或いは見過ごすというミスを繰り返していた。

先史時代の狩猟のリーダーとして必要な資質とは、「健康で強靭な肉体を持ち、集団を統率し、大型動物を捕捉するための優秀な頭脳を有する」コトである。これらを備えていれば、当然、女性でも、ハンター或いは指導者になり得たことがここで確認された。

1000年前のヴァイキングの女性戦士

2020年9月8日付けの「American Journal of Physical Anthropology」によると、1000年以上前に埋葬されたスウェーデン南東部のビルカの墓は、ヴァイキングの男性戦士の『理想』の墓とされてきたが、DNA鑑定によって、この墓には、女性が埋葬されていることが証明された。この墓が発掘された当時(1880年代の終わり)は、遺骨は剣、矢じり、槍、そして殉葬の馬2頭と共に見つかったため、考古学者は固定概念に基づき「これを戦士の、つまり男性の墓だ」と考えた。

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またこのDNA鑑定以前にも、この定説を覆す研究がなされ、遺骨の骨盤と下顎を詳しく分析して、女性に典型的な寸法と一致するという結果が出たが、一部の考古学者は、墓地の発掘は100年以上前に行われたため、ラベルが誤っている、別人の骨が混ざっている、といった批判を繰り返していた。しかし、今回のDNA鑑定の結果、骨からY染色体は全く検出されず、あちこちの骨から取り出したミトコンドリアDNAは全て一致し、遺骨は1人の女性であったことが確定した。またもう1つ興味深いことは、彼女の膝の上には、ゲーム駒があったことから、彼女が戦術立案も可能な優れたリーダーであったという点である。

このビルカの墓の女性戦士以外にも、ヴァイキングには女性戦士の伝承が残されている。10世紀初めのアイルランドの文献には「インゲン・ルーア(赤い娘)」という女性戦士が、ヴァイキングの船隊をアイルランドへと導き、13世紀のヴァイキングの物語の多くに、男性戦士と共に戦う「盾を持った乙女」が登場する。だが、こうした女性戦士の記述は、単なる神話的脚色だと決めつける考古学者が多く存在していた。

つまり考古学的解釈が、上述の9000年前の女性ハンターと同様に、科学者ですら、我々が縛られているステレタイプな性別による役割分担を、無意識に当てはめて、その結果、真実を見落とすことがあるという点である。

政治、スポーツ、軍隊と、米国のガラスの天井にひびが入りつつある。

今月は、米国の色んなガラスの天井にひびが入りつつあるKamala Harrisは初の非白人(黒人&アジア系)女性副大統領となり、メジャーリーグベースボールではMiami Marlinsが史上初めて女性GMにアジア系アメリカ人女性のKim Ngを指名し、US海軍士官学校では175年の歴史上初めて黒人女性のSydney Barberがリーダーとなるなど。

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「先入観」→「偏見」→「差別」の公式をなくそう

私は色んなところで書いたり話したりしているが、「女性云々」という言い方で、事さら性別を話題にすることは避けたいと思っていた。但し、無意識下のステレオタイプな考えが、如何に社会の中で根深く人の考えを支配し、それによって多くの制限が生まれる以上、やはり声を大にして口にすべきだと思い始めた。特に私のように両親の励ましの下で、幼少時からあまりジェンダーを意識せずに育ち、女性としての被害意識を持たずに、常に自分自身ジェンダーニュートラルで歩き続けきた人間だからこそ、敢えて発言すべきだと思う。

また私は、日本時代は男性の独壇場であったエージェンシーの中で、ガラスの天井を突き破るために拳に血を滲ませ(男女雇用均等法以前の話)、米国移住当初は、英語が不自由な外国人という立場で、白人だらけのエージェンシーで、アタマを何度も壁に叩きつけられた経験がある。痛みはよく分かっているつもりである。

無意識下のステレオタイプな思考を消していくには、「目についたステレオタイプな現象」に対して、「それはおかしくないか?」と声を上げていくといった地道なコトから始めるのがいいと思う。疑問を持つことは非常に大切で、その疑問によって、人は新たな「想像力の飛躍」が始まる。

「先入観」があると「偏見」を持ちやすくなり、その結果「差別」という行為が起こる。これを肝に銘じて、想像力の羽を広げて、飛翔しよう!

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アメリカの現実⑪「21世紀の風ー女性を取り巻くダブルスタンダードが徐々に消えてゆく」

白のパンツスーツで登場したKamalaのメッセージ

まだ米国は大統領選挙の開票の最中で、最終的な数字が把握できないが、投票の有効数と代理人の投票により、アメリカ人は、Joe Biden &Kamalaを次期大統領及び副大統領に選んだ。Bidenは7,567万票以上、Trumpは7,126万票以上の投票を得た。これは言わずもがなでアメリカ人の大統領への意見は大きく2つに分かれている。この数字の持つ意味は重く、今後Biden & Harrisのコンビは、コロナ禍でさらに経済格差が拡大し、文化的にも大きく分断されたアメリカという国を1つにまとめていくという重い責務を伴う。

ただ今の私の気持ちは、まずはBiden & Harrisコンビが誕生したことを喜びたい。

一昨日、Kamalaが真っ白なパンツスーツで勝利のスピーチのステージに現れたことに、多くの米国女性達は納得した。これはKamalaの強いメッセージとして、受け止めたからである。年頭のThe State of the Unionで、多くの女性議員は白のスーツで登場した。米国では、白は女性参政権拡大のシンボルで、1920年に米国女性は、合衆国憲法修正第19条によって初めて参政権を与えられて、今年はその100年目にあたる。彼女はスピーチの中でも、このことに触れており、長年の女性達の参政権獲得の苦労と努力の結果を称えている。

また今回の選挙でBiden & Harrisを支えたのは多くの黒人女性でもあり、スピーチの途中で、カメラは会場の人々を写しだしたが、その中で涙する黒人女性や、未来を見つめるかのような少女の姿は印象的である。

KamalaがVPに選ばれたことの持つ意味は大きい。彼女は、米国政治史上初めて女性で尚且つ非白人(アフリカ系&インド系)という立場で、米国で2番目に重い地位に就く。米国女性は、100年かかってこのポジションに辿りついたことになる。

初尽くしのKamalaではあるが、Obamaが選ばれた時にも実感したように、米国は色んなPossibilityを見せてくれる。これが私がこの国に住み続ける理由の1つである。

本当にガラスの天井にひびは入ったのか?

VPであるKamalaの出現は、確かにガラスの天井にひびが入ったように見える。但し、このひびは社会の中で巣くう女性へのダブルスタンダードの偏見を覆すには至っていない。私は8月彼女がBidenのVP候補として選ばれた時に、このSexismや女性への偏見に基づく社会のダブルスタンダードに関して書いた。

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この無意識における女性への偏見を少しでも軽減していかない限り、様々なポイントで、Kamalaも含めて政治・企業・社会の中で、女性は常に「揚げ足」を取られる。

彼女の価値は、初の女性・非白人(アフリカ系&インド系)といった属性にあるのではなく、サンフランシスコ地方検事、カリフォルニア州検事総長、カリフォルニア州上院議員、2020年民主党大統領候補の予備選挙に立候補したという、彼女の略歴そのものにある。彼女の検事として非常に冷静な論理展開で相手を追い詰めるプロフェッショナルとしてAttitudeは、非常に感銘を受ける。またその一方で、常に笑顔を絶やさず、相手に語り掛けるようなトークスタイルは、性差に関係なく人間としての温かみを感じる。

こうした彼女の人間としての資質は、ジェンダーや人種を超えて、政治家として、非常に重要なものだと思う。

何故女性は「ファッションポリス」の餌食になるのか?

Forbesの記事でLela Londonは、以下のように女性政治家を取り巻く、ファッションに関連したダブルスタンダードを指摘している。記事では、Hillary Clintonのパンツスーツ、Alexandria Ocasio-Cortez(AOC)のヘアカットといった女性政治家がファッションによって揶揄されるダブルスタンダード指摘する。

「スーツ以外の服を着た女性政治家」には、ニュースのネタになる価値がある。政治家(つまり男性のこと)ならスーツを着るのが当然だ、というのがその理由だ。「政治家」は中立的・標準的なスーツを身に着けるものであり、ファッションを装うのは「女性」なのだ。女性のファッションに難癖をつける「ファッション・ポリス」は、ひどいときには、女性の装いを、その影響力を失わせるために利用する。最も良い時でも、女性の装いを、その好感度の判断材料にする。そして今回、ハリスが副大統領候補になったことで、ファッション・ポリスたちが活動を始めるのは目に見えている。

Kamalaは、検事という立場上、或いは彼女個人のスタイルなのか、非常にジェンダーニュートラルなスタイル(ダークスーツ)でパブリックに登場する。服装で個性を表現する私個人の目から見ると、ある意味Conservativeに思えるが、多分ごく普通のアメリカ人のファッションセンスから見れば、「reasonbale(妥当)」に見えるはずである。また彼女がキャンペーンやトラベルで愛用するConverseのシューズは、Practicalな動きを可能にするもので、実用性や機能を重んじるアメリカンカジュアルとして、好感を持たれると思う。

ダブルスタンダードが徐々に消え去る気配を感じる

Obamaは大統領に就任すると、日々決断の連続となるので、大統領職以外で決断することの無駄を省くために、同じスーツ・シャツ・タイを何着も用意して、何を着るかという選択を省いた。

政治家にとって、話題となるべきは、政策でありメッセージである。女性政治家であるがために、ヘアスタイル、衣服、メイクアップ、或いは体型も含めて、揶揄・賞賛されるのは避けがたい。但し、Kamalaを見ていると、そうしたダブルスタンダードが過去のものになりつつあるように、自然体で、自分の個性を生かしつつ、政治家としての資質を証明しようとしているように見える。

Kamalaは、21世紀に生まれた米国政治史上初の女性副大統領である。過去のHillary Clintonに代表されるように、20世紀の遺産ともいうべき女性政治家達が受けてきた偏見をものともせず、VPとしてPublic Servantとして、アメリカ市民のために、彼女の資質を最大限に発揮してほしい。

「ファッションポリス」なんて言葉自体がナンセンスで、時代錯誤である。個々人がその職務を実行するために、最適なAttireを選べばいいのであって、それを人が揶揄する傾向は、徐々に消えつつある。Millennials & Gen Zが主役となる21世紀は、ステレオタイプが消えゆく時でもある。


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コロナ禍でのアメリカ生活㉚「Self esteem(自己肯定感)ー遺伝子が作った子供の個々の才能を『無理強いの早期教育』で捻じ曲げない」

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幼少期の教育の重要性が以前から気になっている。昨今の日本は従来の教育の仕方に疑問を呈して、幼児期に英語教育をしてバイリンガルに育るとか、早く仕込めばアドバンテージが多くあると思って、色々やっているみたいだが、慶應義塾大学医学部小児科主任教授の高橋孝雄氏が語る「早期教育は意味がない」という長いインタビュー記事には、様々な示唆が含まれている。高橋教授の記事から、私が関心を持った部分を以下にまとめる。

1)遺伝子の「決定力」はとても強固で、例え劣悪な環境でも大事な部分はしっかり守られる。

胎児は25-26週目ぐらいまで脳には皺はなく、それ以降、300グラムの体重で生まれてきた新生児は、このような危うい状態でも保育器の中で、母親の胎内の中で同様に、遺伝子によって、大人と同じように皺が作られていく。脳のように重要な部分は、例え状況や環境が悪くても、遺伝子という金庫の中で厳重に守られていく。

胎教の観点からモーツァルトの曲を聴かせるといったコトが言われたりしたが、胎児には音楽は聞こえないので、クラシックであろうがヘビメタであろうが、母親が「これがママが好きな曲なので一緒に聞いてね」と胎児に語り掛けてコミュニケーションすることが非常に重要となる。胎児の時から、そのようなコミュニケーションを取っていると、生まれてきた際「やあ、よく出てきたね」というところから親子の関係が始まり、愛情のあるスタートがきれる。

2)子供の性質・性格、嗜好性、学力、運動能力といったものは全て環境要因よりも遺伝子要因で決まる

「トンビが鷹を生んだ」という表現があるが、高橋教授によれば、特定の勉強の得手不得手は教育といった環境要因よりも遺伝子要因で決まる部分が大きいという。これは性質・性格、「何が好きか」という嗜好性、さらに運動能力にも当てはまる。そのために両親が得意なコトや好きなコトを子供にやらせたら、それがその子供に向いていたということが十分起こりえる。遺伝子が作ったその子供の個々の才能を「無理強いの早期教育」で捻じ曲げないことで、「トンビでも鷹のように優秀なトンビ」を育てられる。

3)子供の時に成功体験を積んだ人間(=自分大好きな子供)は強く、自己肯定感を構築するために子供を褒めることが大切

遺伝子要因が多くのことを規定している以上、親が何を子供に提供できるか? 親の育て方即ち環境要因で差がつく部分は、子供が自分に自信を持つ(Self esteem-自己肯定感)ようになるかどうかだと、教授は言う。

例えば、早く自転車に乗れるようになった子と、小学2年生でやっと乗れるようになった子の運動神経の差はない。早く乗れたからといって自転車選手になるわけではない。つまり「早さ」に意味はなく、遺伝子により決められた能力を環境要因で押しつぶすことさえしなければ、必ずそれは必要な時に出てくるようになる。逆を言えば、出来ないこと、嫌いなことはできなくて良い、自信を失わなくて良い。だからこそ、親としては子どもの「出来ること」「得意なこと」を探してあげることが大切

すべてのことは上にいけばいくほど困難になり、頭打ちになる。だから小さな時から挫折感を味あわせないほうがいい。

思春期前の子供の心「Sense of wonder」を伸ばす

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13歳というのは小学校から中学校に上がる年齢だが、思春期を迎える直前の年頃でもある。思春期を迎えると当然のように、子供達の関心は急激に異性に向かい、様々な事象の中に不思議さを感じていた「Sense of wonder」の気持ちを喪失していく。この思春期前に、どこまで子供のSense of wonderを親が一緒になって伸ばしていけるかどうかが、子供の自己肯定感の育成と、もう1つ「自分の見方で物事を見るチカラ」の醸成につながると思う。

Albert Einsteinは、「常識とは18歳までに積み重なった偏見の累積でしかない」と言った。

"Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen." Albert Einstein

私は思春期前の子供達の好奇心とイマジネーションを重要視する。18歳まで待つ必要もなく、思春期を迎えた子供達は、子供時代を通り抜けて、少年&少女になってしまう、それでは遅い。偏見や固定概念が、アタマと身体に沁み込む前に、遺伝子によってしっかり守られた個々の才能を伸ばす教育をすべきだと思う。

私の思春期前の体験が証明する「自己肯定感」の強さ

「自分大好きな子供」は、個が確立されているので、自分が考えた考えや意見を人にコミュニケートしたくなる。同質性を強調する日本社会では、そういう個の確立を、圧力でつぶそうとすることが多々ある。それを考えると、個の確立された子供達がさらにそれを伸ばせるような場や、それを勇気付ける教育の仕方が学校でも家庭でも必要だと思う。

自分の子供時代を振り返ると、非常に興味深い逸話がある。私は小学1年から6年まで常にクラス委員に選出されており、自分で言うのもなんだが成績もよく人気者でもあったが、一方では「女子のいじめ」にもあっていた。女子のいじめは仲間外れのようなものだが、私は女の子の遊びが好きではなかったので、男の子と野球や木登りをして遊ぶという形で無視していた。但し、同じくいじめにあった女の子が転校することとなり、学校で問題視されて、母は初めて私がいじめを受けていることを知り、泣きながら「なぜ言わなかった」と私を詰問した。私は「親には関係ないことだし、私は特にそれを問題視していない」と答えて母をあきれさせた。

私の異端児ぶりは、当時小学生の女の子のくせに、Very short hairでダンガリーのシャツにジーンズで学校に通うというスタイルにも現れている。小学校の卒業時に将来の夢見る職業は?という欄に、女の子がモデル、スチュワーデス、お嫁さんと書くのを尻目に「宇宙飛行士」と書いたぐらいである。

要はSelf esteemが強く、個性を重んじる私は、子供ながらにも、周囲の同調圧力に屈せず、むしろ孤高を選んだという話で、これは親が「ひさみの思う通りに生きなさい」という個性を重視してくれた教育の賜物だと思う。

個が確立された人達が社会を構成し始めると、Diversityの強みがPositiveに生かされる。

「三つ子の魂百までも」ではないが、幼児期の体験は、その後の人生の指針ともなるほど重要である。個が確立すると、それを他の人にコミュニケートして、相手が異なる意見を持っても、なるほどそういう考え方もあると、それをリスペクトするようになる。この「一本独鈷」ともいうべきAttitudeこそ、パンデミックの渦中で今のように混沌として先が読めない或いは見えない時代には重要視される。

今、時代は「見えないモノを見るチカラ」が要求されている。そのためには、偏見の蓄積である常識に捉われない考え方が必要で、そうした思考のInnnovationは、Diversityをエンジョイできる人達の中に見えてくる。

岡本太郎は「同じことをくりかえすくらいなら、死んでしまえ」 とまで言い切っている。

ここはひとつ、幼児期の子供達の個性を発芽させて、それを伸ばすためのサポートや教育の仕組みを考えて、個の確立と自己肯定感を醸成して、同調圧力に屈しない、或いは同調圧力などをかけない社会を目指したい。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉙「"Helper's high(他者を助ける・思いやる行動によって得られる幸福感)"を持とうよ」

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多くの人は実際には体験したことがなくても、"Runner's high"と呼ばれる言葉は知っていると思う。私は中学時代陸上部に所属していたため、学校以外でも自宅からかなりの距離を走っていた。長距離を走ると次第に苦しさが増してくるが、我慢しながらある距離を超えると、逆に「快感・恍惚感」が出てきて、足がまた出始める。これを"Runner's high"と呼ぶが、これとは異なる"Helper's high"とも言うべき「幸福感」が、他人を助けたり、思いやったりすると現れることが、科学的にも実証されつつある。

”Helper's high”という幸福感のメカニズム

"Runner's high"は、継続的な運動中に苦痛を我慢し続けた後に、引き起こされる一時的な多幸感で、長距離走の場合は"Runner's high"で、ボ ート競技の場合は"Rower's high"と呼ばれる。検証実験から、この状態においては脳内にα波とモルヒネ同様の効果があるβ-エンドルフィンという快感ホルモンに満たされていることが判明した。この内、βエンドルフィンの増大が麻薬作用と同様の効果を人体にもたらすことで起こるとされる。注:2015年頃からの研究により、Runner's highをもたらせる物質はβエンドルフィンではなく、体内で生成される脳内麻薬の一種である内在性カンナビノイドに属する化学物質であるとする説も提示されている。

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https://twitter.com/elbi/status/837641240829177856/photo/1/

これも検証実験から言われていることで、「他者を助ける或いは思いやる行為」によって、脳内でエンドルフィンが大量に放出されて、"Helper's high"とも言うべき「幸福感・多倖感」で満たされ、それにより血圧も下がりストレスも緩和されるという。

今朝目にしたForbesの記事「Why Doing Good Boosts Health And Well-Being良いことをすると、健康と幸福感が改善する理由)」によると、思いやりのある人の唾液について、興味深い調査結果が出ている。

調査によると、思いやりがある人の唾液には炎症と闘う抗体である免疫グロブリンAがより多く含まれている。免疫系が改善するだけでなく、寛大な人の脳スキャンからは寛大さによって穏やかな気質やストレスの低下、感情面の健康の改善、より高い自己評価などがもたらされたことが示されている。

これによれば、身体の健康に関しては、免疫が改善され(炎症と闘う抗体である免疫が多く含まれている)、感情面ではストレス低下や自己評価などプラス面が心身共に起きている。

この心身両面という部分がポイントで、これは、社会生活を営むことで人類が人類として発展してきた経緯を考えると、長い人類史において獲得した"biochemical bases for reward(生化学基盤のための報酬)"ともいうべきものではないか? 言い換えると「他者を助ける」という人間社会の根幹ともいうべき重要なマインドセット及び行動を継続させるために、人間は進化の過程でこの行為に「幸福感」という報酬のメカニズムを獲得してきたんではないか?

パンデミックだからこそ、必要なことは「他者を助ける・思いやる心と行動」

Forbesの記事でさらに興味深いのは、この他者を助ける・思いやるというという「向社会性と幸福」の間の結びつきに関して、女性は男性より強い結びつきがあるという調査結果である。研究では「女性は思いやりを持ち優しい存在であることが固定概念として期待されているため、こうした社会規範に添った行動を取ることで良い気分が強まるからだろう」と述べている。

通常、性差における固定概念は悪い方に働く場合が多いが、ここでは、逆にある意味、女性を良い方向に導いている。

私は人間は「性善説」であるという考えを持つ。その上で、このパンデミックという未曽有の危機的状況下で、今一度人は「自分より困っている人を助ける・思いやる」という心と行動を持つことが必要だと思う。

多くの人達が不自由やストレスに苛まれているのは事実だが、自分のそうした不安はまず横において、他者を助ける、そうすると助けられた人もその喜びを、別の人を助けるという形で、行動する可能性が出てくる。そうなれば、「Helper's highという幸福感」のリレーが生まれて、多く人達が不安から一時的に解放されて、「幸福感の連鎖」が満ちると思う。

勿論人によって「幸福感」は大きく異なるので、全ての人が等しくこの"Helper's high"を感じる訳ではない。どこかの国の現大統領をみていると、彼は生来一度もこの"Helper's high"を味わったことがないとしか、言いようがない人物も存在する。

但し「利他主義や協力、信頼、思いやりなどの向社会的な行動」は、社会が正常に機能するために必須のもので、人類の共有文化の一環ともいえる。

青臭いと言われるかもしれないが、私は今だからこそ、これを深く考えて、行動に移して、幸福感を味わい、多くの人達が心身とも健康になる時だと思う。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉘「無駄な時こそが最も必要な時間」

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私の毎日の夢物語

私は毎晩夢を見て、毎朝殆どどんな夢を見たかを記憶している。夢の中の色や匂いも克明に覚えており、また夜中に夢の途中で目が覚めてもう一度続きが見たくて戻るという離れ業も、何回か成功している。

夫は毎朝豆を挽いてコーヒーを淹れてくれるが、私はそのコーヒーを飲みながら、夫にそんな夢の話をする。勿論、夫と全く関係のない夢は話さないが、クライアントとのオンラインミーティングの結果とか、セミナーで作成したPPTをなくし落語家のように身振り手振りのみでセミナーを終えたとか、家の前が何故か海でうちのセールボートのKaiyo(海洋)が接岸してあり、大嵐となってボートに乗って逃げだしたとか、色んな話を毎日話す。

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彼は、25年間も毎朝私の夢物語に付き合っているので、通常はふんふんと聞いているだけ。ただ、仕事関連の話が多いせいか「君は昼も夜も24時間働きづめで休みなし。まあ君はそれが好きだからいいけど、君の脳はいつ休暇を取っているんだろう?」と言われた時には、流石にはっとした。

不眠不休の脳にとって睡眠時は己を最適化するための清掃時間

今日読んだ記事のタイトルが、「Why Neuroscientists Say, ‘Boredom Is Good For Your Brain’s Health.’(神経科学者が「退屈は脳の健康に良い」と言う理由)」だった。私は、思わず「おっと、私が最も苦手なことだ(私は退屈な時間を持つことがまずできない)」と思ったが、読んでみた。

脳は24時間365日休暇や休憩を取ることなし「常にOn状態の器官」として、我々が生きるために不眠不休で働いている。脳科学者のJill Bolte Taylorは、脳と睡眠の関係を以下のように説明している

「私たちが持つ全ての能力において、脳細胞は情報をやり取りしている。歩いている時、脳細胞は筋肉に動くよう伝えている。脳細胞は常に働いている。脳細胞は食事をして老廃物を出す。そのため、細胞の間の老廃物をきれいにする最適な時間が睡眠中であり、そうすることで細胞がきちんと機能できるようになる。私はこれを、ごみ収集業者がストライキを行うことに例えている。そうなれば、道がどれほど混雑するかを私たちは知っている。これこそ、脳細胞に起きていることとまさに同じ。体が起きる準備ができる前にアラームで目を覚ませば、脳が求める睡眠サイクルの一部をカットしたことになる。睡眠は脳を活性化させるもの」

Iowa State University の医学誌『Sleep』による調査では、睡眠を制限することで怒りが増幅することが示されており、不眠不休の脳にとって、睡眠時は己を最適化するための清掃時間で、その重要性を指摘する。

何もしないでただ時間を過ごすこと

多くの人達は「何もしないでボーっとしていること」に罪悪感を感じる。これは、社会全体が「仕事(労働)の生産性を重視する」ように作られた現在ならではの、悲しき宿命である。この何もしないで時間を過ごすことを考える時に、面白いのは言葉の語源である。

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フランス語の「Vacances(ヴァカンス)」の原義は「空っぽ」という意味で、英語でいうと「Vacant」となる。これは元々「有閑階級(働く必要のない金持ち)」がすることもなくボーッとしていることの形容だった。それに反して「Travail(トラヴァーユ)」は「仕事」を意味し、語源は「足かせ(ローマ人がガリア征服の際に捕虜につけた内側にトゲがある拷問具を兼ねた足環)」である。

「仕事(労働)の生産性」を考える上で、この語源は、社会が内包する本質的な階級制度を象徴していて、非常に興味深い。私自身は、マグロのように「泳ぐことを止めた瞬間に死んでしまう」性質なため、「何もしないでボーっとしていること」が最も苦手である。自分がどの階級に属するかを、このことからもよく分かる。自分は生涯「有閑階級」には到達できず、1人の労働者で終わると痛感する。

上述の記事によると、「退屈さにより、実は、創造性や業務に取り組むやる気、仕事での生産性が向上する可能性がある」という。

何かをすることをガソリンとすると、何もしないことは生産性のブレーキ。ブレーキがない車はエンジンが燃え尽きてしまうが、キャリアの成功を収める上でエンジンを燃やす必要はない。神経科学者によると、退屈さはこれまで不当に非難されてきた。退屈さにより実は、創造性や業務に取り組むやる気、仕事での生産性が向上する可能性がある。脳の健康のためには時々自分を退屈させることが重要だ。

無駄な時こそが創造的なアイディアの大切な場

また脳には、私たちが何かをすることから解放された状態でオンになる既定のネットワークモードがあることを、社会神経学者らは発見している。退屈さは創造的なアイデアを育てることができ、低下しているエネルギーや仕事におけるあなたの魅力を回復させるとともに、まだ初期段階にある仕事のアイデアを発展させるためのインキュベーション(ふ化)期間を与えてくれる。

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脳は、酷使し過ぎない時に、本当に必要な休憩を得ることができるらしい。何かをしなければならない時には、脳は休めないが、何も考えずにただ海辺を歩いたり、草花を愛でたり、遠くの夕陽が沈むのを眺めるといった、To do listに入っていない不必要な時に休みが取れる。

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コロナ禍で多く人達の気持ちがささくれ立ち、大なり小なり様々な不安が常にどこかに入り込んで、みんな「こうしなければならない状態」なっている。これでは、脳は最適化のための休暇が取れない。

足かせを外してぼーっと時間が過ぎるのを眺めようよ

「足かせ(ローマ人がガリア征服の際に捕虜につけた内側にトゲがある拷問具を兼ねた足環)」を語源とする「Travail(トラヴァーユ=仕事)から、自分を解放するのは、並大抵のことではない。但し、人間としてよりはっぴいに生きるためには、大切な脳を休ませる必要がある。

私自身に関しては毎日の自分の夢を結構エンジョイしており、睡眠不足だと思うことは殆どない。夕食後にカウチで「Pre-sleep」を1-2時間取るのが習慣化しており、ベッドでの眠りは浅いのと深いのが交互に来ているようで、夜明け前に自然と目が覚める。このスタイルは一定しており、願わくば、私の脳は、睡眠時にしっかりお掃除をしながら、休んでくれることを期待している。

ぼーっと時間が過ぎるのを眺めようよ

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アメリカの現実⑩「サステイナブル&エシカルっていう観点から卵を考える」

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『Cool Hand Luke』のように卵50個は無理だけど、1日3個は食べている私

私は卵が大好きで、毎朝4個の卵をゆでて、朝食兼昼食にお味噌汁と2個のゆで卵を食べる。後の2個のうち1個は夫が、もう1個は私の夕食までのつなぎで、すぐに栄養補給する必要に迫られた時のためのもの。卵といえばPaul  Newman主演の1967年映画『Cool Hand Luke』で、刑務所の中でLukeはゆで卵50個を食べられると豪語した賭けのシーンを思い出す。

この映画は卵に限らず非常に面白くPaul  Newmanの良さが、全編で活かされており、まだ観ていない人は是非ご覧いただきたい。

卵好きの私が勧めるVital Farms

2020年7月31日にテキサス州のオースティンにある、Vital FarmsがNasdaqでIPOを果たした。私はこの企業の上場云々以前に、近所のマーケットでこの卵を目にして以来、その鶏の育て方と卵そのものの味で大ファンとなり、買い続けていた。この卵は、Pasture-Raised Eggsなので、殺菌処理されておらず、Pasture(牧草)にアクセス可能なフィールドで育てられた鶏から生まれた卵である。

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Vital Farmsは、小さな農家(すでに200を超えた)と契約して、エシカルに育てられた「はっぴいな鶏」が生む放牧卵を、全米の1万4,000店舗のマーケットに卸している。Vital Farmsは、契約している小さな農家と共に、丁寧にビジネスを育て上げ、パンデミックも含めて、近年の消費者のサステイナブルな食への関心と自宅で料理するトレンドは、投資家にも注目されて、彼等のビジネスモデルは大きく押し上げられた。

以下の図にあるように、この公式がこの企業を支えている。

"Pasture-Raised"+"Family Farms"+"Purpose Before Profit"=Vital Farms

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消費者は「放牧卵」的なイメージを作る用語を正しく理解していない

誰でも、身動き1つ出来ないケージの中で、工場生産のベルトコンベアともいうべき仕組みで、卵を産み続けるためだけに生かされている鶏の卵より、放牧卵のほうがいいに決まっている。生産者或いは企業は、3つの言い方で、卵を産む鶏の育て方を表記しているが、以下の3つの表現は、鶏を1羽を育てるスペースが大きく異なる。つまり一見放牧されているイメージを持たせる「Cage-Free」や「Free Range」といった言葉は、実は消費者を惑わす要素があり、Pasture-Raisedとは、エシカルな観点からも大きく異なる。

  • Cage-Free:1羽あたり、約1平方フィート(0.09平方m)

  • Free Range:1羽あたり、約2平方フィート(0.19平方m)

  • Pasture-Raised:1羽あたり、少なくとも108平方フィート(10.03平方m)

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またPasture-Raised Eggsのためには、気候や土壌も適切なモノでなければならない。Vital Farmsは、以下のグリーンで示された「The Pasture Belt」というエリアにある小さな農家と契約している。

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当初は10ドル以上した卵が今は6ドル以下まで下がった!

我が家もそうだが、毎日食べる卵の価格は、やはりかなり気になる。幾らエシカルで素晴らしい味でも、1ダースが12ドルすると、流石に毎日何個も気前よく食べることに躊躇してしまう。しかし、らっきいなコトに、上場前からVital Farmsは徐々にスケールアップしており、価格が6ドル以下に落ちてきたので、今はいつでも、安心して購入できる(普通市場に出回っている最も廉価の卵は2-3ドルで買えるので、6ドル以下は今でも高い印象があるが)。

Vital Farmsは、2018年時点で累計で2,500万ドルを調達して、市場価値は1億3,600万ドルとされていたが、上場直後、22ドルのIPO価格は60%も急騰し、時価総額は13億ドルに達した。私は、闇雲にいろんなスタートアップのIPOを手放しに誉めるほど、ナイーブではない。但し、Vital Farmsの卵の販売価格がより求めやすくなったのは、上場による資金調達と市場価値の上昇がもたらしたものとして、珍しく喜んでいる。

Vital Farmsの創業ストーリー

13歳になる前に、既に近所の人たちに卵を売っていたという創業者のMatt O’Hayerにとって、今回は2回目のIPOである。彼は1998年に旅行予約企業を上場させたが、911テロ後の需要減少で廃業した。彼は2007年に友人であるWhole Foodsの共同創業者のJohn Mackeyの住むオースティンに移住し、彼からオーガニックでエシカルな食品需要の高まりを聞いて、この分野での起業を思い立った。

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彼はまず20羽の鶏を購入しオースティンで育て、地元のファーマーズマーケットやレストラン向けの販売を開始した。しかし、当時は彼が希望した価格(10ドル以上)で卵を買う顧客は存在せず、売れ残った卵をフードバンクに寄付する日々が続いたという。因みにこの時、卵の販売に使っていた彼の車は2005 SUBARUだった(13年後の2018年の時点でも彼はSUBARUを所有していた)。SUBARUは我が家の大切な車ブランドで、尚且つSUBARUは私の会社JaMの主要クライアントでもあり、この点だけでも、思わず彼を応援したくなる。2018年のForbesのインタビューで、彼は「それでも私は、サステイナブルなビジネスにふさわしい価格を消費者に理解させようとしていた」と話している。

その結果、WalmartやAlbertsonsといった米国のメインのマーケットの顧客にもその価値が認識されて、価格は1カートンが5.59ドルとなった。現時点ではVital Farmsの卵を購入する消費者の割合はわずか2%だが、上場により、その比率を急速に拡大できると見込んでいる。

O’Hayerは以下のように明言する。

“I was always looking for the exit. Instead of looking to get rich, I realized I could build a company where I was focused on employees, customers, shareholders, and the environment,” “It’s so much more fun than focusing on profit.”

Purpose before profit

O’Hayerの言葉からも示唆されるように、上場によって得られるものは、それによって、自分が求める価値観を具現化するビジネスにフォーカスすることが可能になるという点である。

彼は「金儲けよりもっと面白いことがある」と言う。そして、彼のサイトにある言葉、"Purpose before profit" まさにこれが今のビジネスで最も重要なポイントだと思う。

「金儲けをする人」は世の中に多く存在するが、「お金の使い方を知っている人」は意外と少ない。Purposeがないビジネスは、サステイナブルに事業が継続していかない。サステイナブルな企業は、全てのステークホルダー(社員、顧客、パートナー企業、株主、コミュニティ)に価値を与える。

私は1人の消費者として、自分の消費行動を通じて、少しでもサステイナブルな社会活動に貢献していると思うと、嬉しい。これからも、はっぴいな鶏が生んだ美味しい卵をエンジョイしながら、毎日食べられる喜びをしっかり噛みしめる。

PS: 私は、自分の価値観を共有できる企業を応援する一つのやり方として、その企業の株を購入すべきだと思っている。私は既にVital Farmsの株を購入しているので、現在私は顧客&株主という2つの面からVital Farmsのステークホルダーでもある。

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アメリカの現実⑨有力な女性政治家が出てくると必ず出てくる「Nasty Woman Blues」

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Kamala HarrisがJoe BidenのVP running mateとなった瞬間から始まる米国のSexismのうたい文句「Nasty Woman」

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アメリカの現大統領の女性への蔑視は今更驚くべきものではないが、彼が有力な女性政治家達に発する“Nasty”という言葉には、彼の女性に対するSexismが常に投影されている。彼が"Nasty Woman"とコメントした女性達は、2016年の民主党大統領候補のHillary Clintonを筆頭に、House SpeakerのNancy Pelosiなど、数々のガラスの天井を自分の拳で打ち破り、ステレオタイプな女性論をものともしないで勝ち上がってきた有力な女性政治家達である。

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"Nasty"という形容詞には以下のように様々な意味があるが、4番目にあるように女性を性的対象とみて「みだら、わいせつ」と描写する意味も含まれている。現大統領の過去の女性遍歴および女性への取り扱い方を鑑みれば、彼が、なぜNastyを女性に対して使うかがよく分かる。

【形容詞】
1. 不浄な、とても不快な、気持ち悪い、不愉快な、陰険な、非常に不潔な
2. 扱いにくい、やっかいな、嫌な、意地悪な、悪意ある
3. ひどい、危険な
4. みだらな、わいせつな

アメリカでは彼の言葉を受けて、多くの女性活動家達は「OK、あいつが優秀な女性達をNastyと呼ぶならば、自分達はNasty Womanとして誇りをもって、彼に挑戦する」という団結を生んでいる。2016年のHillary Clintonへの非難の言葉から、様々な"Nasty Woman"のミームも作られ、ステイトメントT Shirtsも販売されており、今でもNasty Womanを自分のステイトメントとして使う女性はいる。

注:「Nasty Women Gets Shit Done」の「Get Shit Done」は「素早くやってしまう」という意味。

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また"Kamala Effect"とも言うべき、Fundraisingの波が起きている。Joe Bidenが彼女をVP running mateとしてアナウンスして、わずか4時間で1080万ドルの献金が集まり、民主党大統領キャンペーンは興奮に包まれている。Kamalaは父親はジャマイカ系移民、母親はインド系移民の長女で、初のアフリカ系&アジア系アメリカ人女性として有力政党のVP候補として選出された。Joeの年齢を考えると大統領は一期で終わる可能性が高く、その場合二期目の民主党の大統領候補となりうる可能性は高く、アメリカの初の女性大統領という椅子も見えてくる。

Sexismは、無意識に形成される。

Sexismは、その個人が育ってきた時代や環境など、社会的な要因が大きく作用して、無意識下にステレオタイプな女性への見方が形成される。この無意識下という点が厄介な部分で、時には本人はそのステレオタイプな見方が「女性への蔑視や偏見」であるというコトに気がつかない場合もある。アメリカの現大統領の発言と行動は、Sexismを活用して、意図的に彼の支持母体となっている人々が喜びそうな発言で、支持層の無意識下の「女性への蔑視や偏見」を助長・鼓舞して、自分の再選への足がかかりを得ようとしている。彼は、また女性即ちSexismに、Women in colorというRacismを加えて、白人以外の女性政治家達を貶めるというコトもしばしば行っている。その際に使われる形容詞は、"Nasty, Mean and Angry"という3つで、これにBlack womanという言葉を添えて、彼に反対する影響力を持つ女性達にラベルを貼りつける。

メディアや広告の中で、人々が目にするコンテンツにはステレオタイプなラベルがべたべた貼られている

調査会社Kantarが実施した調査では、マーケターの大多数が、自社は人間をステレオタイプに描いていないという。しかし英国と欧州で出稿されている広告の約68%が、女性を「感じの良い」または「優しい」姿に描く一方、「権威ある」女性を登場させている広告はわずか4%しかないことが、同じ調査で判明している。

英国の広告主協会(ISBA)と広告業協会(IPA)、テレビ広告を事前承認する非政府組織Clearcastは、広告に描かれる主観的なジェンダーステレオタイプの削減を図り、ジェンダーニュートラルな広告コンテンツの普及を図ろうとしており、昨年以下の2つの広告の差し止めを行ったことで話題を集めた。

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ASAは、VWのヴィデオ広告は、男性は女性よりスポーツをするのが好きだというイメージを強化するものであるとし、Philadelphiaは、男性は子育て能力が低いという考えを温存すると判断された。Philadelphiaの広告は、コミカルな効果を狙ったもので、ごく短時間に要点を伝えるため、しばしばステレオタイプに根差したユーモアを利用するという、広告ではよく使われる戦略である。

ASAらの判断はやり過ぎとの意見も出たが、ASAは以前にも広告業界の義務として、業界が広めるメッセージは、消費者についての単なる決めつけではなく、オーディエンスに関する真のインサイトに基づくものであるべきだと訴えており、ジェンダーニュートラルの重要性をこうしたステレオタイプなコンテンツをなくすという指導において実行しようとしている。

男性に対して否定的な形容詞ではない"Aggressive or Ambitious"が、女性に対しては途端にネガティブになるダブルスタンダード 

私個人の経験で言うと、今から40年以上前、新入社員だった私は、同期の男性社員達と仕事帰りに飲食をしながら仕事のことで議論となり、すでに酔っていた同期が「おまえが男だったら、この場で殴ってやる」と言われた。私は「男に変わる訳はないんだから、今殴ればいい」と言い返したら、同期はブルブルと口を噛みしめて一言もなかった。彼とは本当に仲が良く、その後何でも話し合う仲であったが、彼の言葉の端々に「おまえが男だったら」というニュアンスが常にあり、彼は、無意識に潜むステレオタイプな女性像を捨てるのにかなり苦労していたのを思い出す。

その後、広告代理店の初の女性営業として、私は常に"Aggressive and Ambitious”とネガティブに評されていたが(これを日本語に言い換えると「女のくせに生意気だ」)、仕事の実績で社内での評価を固めたため、その後は誰も私を女性としてのラベルを貼らなくなった。

注:当時広告代理店の女性は、短大卒のみを雇用し、基本的にはクライアントのお嬢さんで、職務はお茶くみ・コピー取り・電話番がメイン。私だけが一切クライアントで関わりのない、4年制卒の女性社員で、人事部長から「大柴さん結婚したら退社していただきます」と釘を刺された。

ジェンダーニュートラルが世界の潮流

現在、女性のリーダーが国をリードすることは特に驚くに値しない。以下の写真マップがそれを証明している。

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Combined map: 2019年11月29日現在で87カ国が、過去・現在女性を政府のトップとして選挙で選んでいる。
Female head of government:イエロー
Female head of state:ブルー
Female head of state/government as the only elective position:ライトグリーン
Both female head of state and female head of government (separate posts):グリーン
Female prime minister or state counselor as deputy to the combined head of state and government:ライトブラウン
Not shown: Four former sovereign states also had a female head of state or government (East Germany, Soviet Union, Yugoslavia and Tannu Tuva).

私はリーダーは女性であるべきだというコトを言いたいのではなく、ジェンダーに関係なく、適切な人物がリーダーとなるべきだと思っている。但しその際、往々にして古典的なステレオタイプな女性像を押し当てる傾向があり、それがその人がリーダーとしての適切かどうかを判断する眼を曇らせる可能性があるということを指摘したい。Sexismとは実に愚かしいと思う。その矛先は女性に向けられることが多いが、男性へのステレオタイプな見方も横行している。「男とはかくあるべし」のような枠で男性を見ることもSexismである。

私は日本の広告代理店時代に、女性営業として初めて部下が得た。

彼は新入社員で入って来た男性で、私は1-2年経った後だ思うが、彼に「初めての上司が女性でやりにくかったでしょう?」と聞いた。

彼は「いいえ、大柴さんを一度も女性だと思ったことはありませんので、全然問題はありませんでした」と答えた。

これを聞いて、私は内心「やった!」と小踊りしたことを思い出す。この答こそ、私が40年前に望んたことである。私のアタマには、常にジェンダーニュートラルな見方と行動が大切、という認識が強く、それを実践できたことの喜びは大きかった。

"The World Is Flat"

「地球は球体であるが、世界はフラットである」私は常にこう考えている。

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アメリカの現実⑧「パンデミックや公聴会に関係なく巨大化するGAFAMの5社」

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7月31日Appleは株式時価総額が、国営石油会社Saudi Aramcoを抜き、世界最大に返り咲く

金曜日、Appleは終値ベースで1兆8422億ドルと過去最高額に達して、Saudi Aramcoの1兆7595億ドルを上回って、再び上場企業で最大の時価総額を持つ企業に返り咲いた。Q3のレベニューは597億ドルで、対前年比11%増となる。パンデミックで多くの企業や消費者生活が打撃を受ける中で、GAFAMと呼ばれる5大企業(Google、Apple、Facebook、 Amazon、Microsoft)の業績は2桁の伸び率で絶好調である。

いみじくもサウジアラビアの石油公営会社という旧勢力ともいうべき企業を追い越して、トップに立ったのがテック企業のAppleというコト自体が、今の時代が、誰に支配されているかを象徴しているように思える。

以下の表はNasdaqにおけるGAFAMのシェアであるが、7月22日の時点で、5社で46.3%を占めている。Teslaの2.7%もちょっと異常と思えるが、GAFAM5社の独占化は、パンデミックの恩恵によって、今後もっと膨らむはずで、支配者の地位は不動に見える。

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The Four + Microsoft = GAFAM

2017年のScott Gallowayの書籍 ”The Four: The Hidden DNA of Apple, Amazon, Facebook, and Google”の4社が、我々の消費行動のどの部分を狙っているかの分析は、実に的を得ていると思う。

彼は、この4社をこんな風に説明している。

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Galloway: “Google targets the brain and our thirst for knowledge. Facebook is trained on the heart and our need to develop empathetic and meaningful relationships. Amazon targets the guts, satisfying our hunter-gatherer impulse to consume. And Apple, with its sleek, sensual products, has its focus firmly on our genitals.”

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彼の分析を一言で言い換えると、こんな風になる。

Google: ブレイン(ナレッジ)=我々のナレッジへの渇き、即ちブレインを狙っている。
Facebook: ハート(人間関係)=我々のハートが共感に満ちた有意義な人間関係を築くように訓練している。
Amazon: ストマック(消費行動)=我々の狩猟採集の消費行動を満足させるストマックを狙っている。
Apple: プライベイト(生殖=異性への性的魅力)=スマートで性的魅力のある製品は、我々のプライベイトな部分にフォーカスしている。

書籍が出てから3年経つが、我々の生活は「The Four + Microsoft=GAFAM」の5社に依存し、各社の棲み分けはすでにオバーラップして、我々の住む世界を支配する5社はより強化されている。

GAFAMの5社は「パンデミックの焼け太り」で高収益を上げている

以下の表を見れば一目瞭然で、ちょうど議会でGAFAの4社のCEOが召喚されて、市場の独占支配を追求されている最中に、この5社のQ2の利益は2桁となり、この3か月間で、5社は合計339億ドルの利益を創出した。

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GAFAMの5社の2019年1‐6月と2020年1‐6月の半年間のレベニューの比較:
Amazon:1644億ドル(34%増)
Apple:1180億ドル(6%増)
Alphabet:795億ドル(6%増)
Microsoft:731億ドル(14%増)
Facebook:364億ドル(14%増)

投資家は、GAFAに対する議会の政治劇を無視して、業績の好調さのみに目を向けている。GAFAの銘柄に対するアナリストの投資判断は83%が「Buy」としている。Amazon株は年初から急騰しているにもかかわらず、投資判断を「Sell」としているアナリストは1人だけである。

GAFAの4社のCEOがヴィデオ会議経由で一堂に会した議会公聴会

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GAFAの4人のCEOはヴィデオ会議システムを経由で5時間以上に渡り、市場での支配力を巡り議会公聴会で糾弾された。議員らは非競争的行為やユーザのプライバシー、偽情報といった問題について追及した。

第3者が販売するAmazonのマーケットプレイス、AppleのApp store、自社の資産にトラフィックを集めようとするGoogleの傾向、ソーシャルネットワークの世界で自社の地位を脅かしかねない企業を次々と買収するFacebookのやり方などが問われた。議員や規制当局は数年前からGAFAに対し圧力をかけているが、ほとんど成果を挙げていない。

The Four(GAFA)のロビー活動費の急増

以下のグラフが示すように、Google、Amazon、Facebook、Appleは、過去2か月間で、4社合計5450万ドルをワシントンDCのロビー活動に使っている。これは2015年から35%増で、2010年に比較すると500%増となる。この金額の推移を見れば、4社の政策への影響力の大きさと、公聴会の圧力が効力を持たないかが分かる。

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GAFAMは今後どんな風に社会(=我々に)に貢献してくれるのか?

昨日からMicrosoftのTikTok買収の話が出回っている。Reutersによれば、親会社のByteDanceは、米国でのTikTokのオペレーションを手放す可能性を示唆しており、そうなるとMicrosoftが米国ユーザのデータベースを握り、他企業もTikTokに参与できる可能性がある。セキュリティ問題で待ったがかかっているこの買収に関しては、現在ホワイトハウスと協議中らしい。

私は、何もGAFAMを目の敵にしている訳ではなく、1人の利用者として、この5社に、公私共々大いに依存して、生活している。言い換えると、山ほどお金を使っている、5社のロイヤルカスタマーで、さらに立派なStake Holderでもある。直接彼らのサービスや製品を購入しなくても、間接的に、毎日彼らのプラットフォームにログインしたり、アプリを使って、彼らの広告主の製品やサービスを購入している。

そう「お得意さん」として、今、彼らに言いたいのは、経済のエコシステムの中でエンドユーザである我々が豊かにならないと、最終的に彼らのビジネスにも金が潤沢に流れなくなるという点である。我々が豊かになるために、彼らが今直ぐ出来ることを提案してほしい。

我々が豊かになるためには、まず我々の心の安定が必要である。社会問題を重視して、差別やヘイトを助長するような動きを防止した上で、製品やサービスを提供してほしい。またこれだけ儲けているのだから、Tax haven利用から足を洗って、米国に対する納税義務をしっかり履行してほしい。税収が増えれば、アメリカ社会(=我々)により大きな経済的な支援が可能となる。そうした上で、企業としてより儲けるのは、結構なことだと思う。

ロイヤルカスタマーの我々が、5社に本当に失望し、見切りをつけ始めれば、栄耀栄華を誇るテックジャイアントも、どこかでTipping point(臨界点)を迎える。

平家物語「祇園精舎」の序文は、どんな権力にも当てはまる真理だと思う。

祇園精舍の鐘の声、諸行無常の響きあり。 娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。 おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。 猛き者もつひには滅びぬ、ひとへに風の前の塵に同じ。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉙「マスク着用を政治的ステートメントとする愚かな党派的考えが、ここまでコロナ感染拡大を促した」

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幸運なことに私達夫婦は、University of UtahのCOVID-19の調査プロジェクトに選ばれて(ランダム抽出)、PCR検査を2人で受けた。2週間後に、2人ともネガティブであることを正式に通知されて、まずはほっとした(無自覚症状でポジティブだったら、感染のキャリアとして他の人にデリバリしてしまうから)。事前にオンラインで2人の過去6か月間の行動やその他の質問項目に回答して、事前予約をとって、指定された日時に検査所(教会の駐車場)に向かった。ドライブスルーので、待つことなく指定の駐車場にさーっと入って、防護服に身を固めた担当者達がテキパキと作業していた。車の窓を開けて、鼻に綿棒をかなり強く差し込まれて(ちょっと涙目)、血液をスパッと採取され、ほんの5-6分で、車に降りることなく、さらっと終わった。彼らは個人情報を保護しつつ、私達をトラッキングすることも可能ということで、かなり顧客満足度の高いスムーズなオペレーションだった。

多くの州では医療従事者や検査員を守る防護服やツールの不足もあり米国はひっ迫している

私達の横のヘルスケアの保険会社の検査会場では、駐車場に入る車の長蛇の列ができており、担当者が車1台1台に検査目的を確認して指示していた。今コロナ感染の検査には、医師のReferralを持って行けばできる。但し、それを受けるために、車の行列ができており、夫はあの列には加わるのであれば、僕は引き返したと告白している。

州や郡によって異なり、一概にこれはこれこれこうだと言えないのが米国であるが、リアリティはかなり悪化していると思う。7/25現在で感染者428万人、死者14万9000人という米国は、昨日の新感染者は3万人、新たな死者は477人とうなぎのぼりである。当然のように医療従事者やエッセンシャルワーカーに必要な防護服からツールまで不足しており、検査すら中々簡単にできない状況である。

パンデミック開始後4か月たってやっと現大統領はマスク着用の重要性をいやいやながら言及するという無責任さ

以下のグラフを見てほしい。YouGovとImperial College Londonの調査結果で、米国では、3月初旬は10%以下、4月初旬は30%、7月半ばで78%がパブリックでマスク着用と回答している。この数字の推移を見れば、如何にアメリカ人がマスク着用に関して、ためらいがあったがこれで分かると思う。

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理由は、マスク着用を現大統領を含めた共和党が政治的ステートメントとして扱ったことが大きな理由の1つとして挙げられる。それ以外には、マスク着用は感染拡大初期に保健当局者の見解が分かれていたことも挙げられるが、民主党の大統領候補のJoe Bidenがマスク着用の重要性を訴求することに、反対・対抗するツールとして、現政権はマスク着用は個人の自由という方便を使っている。この党派的な立場におけるマスク着用は、多くのトラブルや論議を巻き起こしている。

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3人目の死者まで出たマスク着用のトラブル

7月14日ミシガン州の郊外のコンビニエンスストアで、マスク着用を別の男性客から求められた男が相手を刺す事件が発生し、その男は逃走先で警官に撃たれて死亡している。これでマスク着用に関連したトラブルによる死者は少なくとも3人目となる。

Walmart、BestBuy、Starbucksなどは、小売店舗は来店客へのマスク着用を義務付ける措置を実施している。米国では少なくとも30州が何らかのかたちでマスクなどの着用を義務づけている。ただし、その実施は多くの場合、エッセンシャルワーカーである店舗の社員に任せられており、ソーシャルメディアには、社員がマスクを着けない客から怒鳴られている様子も投稿されている。Goldman Sachsは、全米でマスク着用を義務化すれば米経済の損失を1兆ドルいう試算を出している

マスク着用とSDがリスク削減の大きなポイント

以下の表が示すように、マスクを着用し、他者とのソーシャルディスタンス(SD)の距離を保てば、感染するリスク削減は、着用せずにSDを無視する人達より大きく軽減できる。これは子供でも分かる理屈であり、科学的な事実である。これを過去4か月間認めずに、マスク着用とSDを政府レベルで奨励してこなかった現政権に対して、もう言うべき言葉も見当たらない。経済再開をする云々の問題以前に、公衆衛生の観点から、個々人にこの2つを義務付ければ、既に亡くなった14万9000人の死者のうち、何人が助かったのかと思うと、遺族の悲しみと医療関係者の悔しさが察せられる。実に愚かな政権である。

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大学はこの秋キャンパス再開のために学生の検査を実施する予定だが、このままでは検査ツール不足が悪化する

大学の動きも活発で、今秋にキャンパス再開のために、各大学の保健部門が主導して学生や教員やスタッフの広範かつ頻繁な検査を行う計画を打ち出している。但し問題は、検査キットを含む検査能力がこれに追い付くかどうかという点である。学生達もオプションがあるならば、キャンパスライフに戻りたいと切望しており、彼らの安全を確保し、ウイルス拡大を促す温床になるのを避ける方法について、現在議論されている。パーティやスポーツイベントには参加しないと学生達も発言しているが、何万人も生徒を抱える大学がどこまでこれらの学生全員を検査して、その後も彼らが公衆衛生を守るような行動をとれるかの保証はどこにもない。また大学生に限らず、小中高の学校再開も現政権は推奨しており、これらの学校が再開されると、今後は子供達によるクラスターが発生することは否めない。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、現時点でも38%いるのがこの国のリアリティ

現政権の無責任さは、今に始まったことではないが、11月の大統領選挙まで待って、2021年1月20日の就任式まで現政権がこの国を導くと思うと、酷い頭痛に襲われる。コロナ禍に関して戦略がゼロという政権を抱えて、苦しむのは、医療関係者、エッセンシャルワーカー、既往症を持つ病人、保険のない低所得者層など、コロナ禍を避けようもない人達である。

馬鹿げた党派的な発言や行動を一切やめて、最低限の公衆衛生の基本ともいうべきマスク着用とSDの順守を市民に促し、国レベルで検査キットやツールの提供を十分に行うといったことをまず実行してほしい。

国民を守ろうとしない現大統領を支持する人達が、今でも38%(6/30時点のGallup調査)存在するという米国の現状は実に悲しい。

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彼らを主体にして2016年現政権が誕生した。あと4年間こうしたカオスの中で暮らすことは出来ない。どちらにしても、11月にはその答えを知ることになる。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉘「パンデミックは今後必ず起こる現実。今こそUBI(Universal Basic Income)のようなセーフティネットが必要」

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パンデミック云々に関わらず、富める者はいつでもさらに富む

以下の表はパンデミックがスタートした3/18から6/17までの米国のビリオネラー達の資産推移であるが、ロックダウンで休業や失業にあえぐ中小企業、若年就労者、低所得者層の経済的な苦しみとは無縁に、大幅に資産を増やしている。米国の643人のビリオネラーの資産合計は、3/18時点で2.9兆ドルであったが、6/17には3.5兆ドルと20%増加した。また、4,550万人のアメリカ人が失業保険申請をしている間に、新たに29人がビリオネラーに仲間入りしている。

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Jack Dorseyも参加し始めたUBIの実現のための実験

Twitter & SquareのCEOのJack Dorseyは、4月個人資産の28%に当たる10億ドル(Square株を売却して充当)を、コロナ禍の被害対策の慈善基金「Start Small Foundation」を立ち上げて寄付すると発表した。彼のフォーカスは、少女たちの健康と教育、更にUBI(Universal Basic Income)であるとし、寄付用途をGoogle docのスプレッドシートに上げて、一般の人達が閲覧できるように共有するという情報の透明性を訴求した。

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以下の表は、米国のビリオネラーの個人資産の寄付額の順位であるが、Dorseyは個人としてはダントツのトップの金額10億ドルを寄付している。

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Dorseyは、今回その基金から300万ドルを、カリフォルニア州Stocktonの市長のMichael Tubbs(29歳)が結成した「Mayors For A Guaranteed Income(MGI)」と呼ばれる、全米16都市の市長達の連合に投入すると発表したこの連合は、市民に無条件で定期的に現金を給付する「UBI(Universal Basic Income)」の実験の一環として始められる。

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Forbesの記事によると、Squareの株価は4月以降に165%増となり、Start Small Foundationに提供された株式の価値は22億6000万ドルまで膨らんでいる(7/9現在)。Dorseyは、ケニアとウガンダでUBIのテストを実施中のNPOのGiveDirectlyにも1120万ドルを寄付している。

DorseyやYangが推進するUBIとは何か?

UBIの詳細に関しては、5/26に書いた私のブログを参考にしてもらいたい。

「UBIとは、生活保護や各種の助成金や補助金、年金や医療保険などの現在の社会福祉制度を大幅に簡素化し(もしくはすべて廃止し)、その代わりに住民全員(世帯ごとではなく家族全員)に無条件に毎月一定の現金を支給する制度である。この考えは16世紀に英国の思想家Thomas More(トマス・モア)が、社会政治を風刺した1516年の著作『Utopia(ユートピアはモアの造語で、どこでもない即ちどこにもない場所)』で最低生活保障について触れているように、決して新しい考え方ではなく、現在世界中で様々な実験が試みられている。」

このUBIの理念は、私も応援した民主党大統領選挙候補だったAndrew Yangの選挙キャンペーンの中心メッセージでもある。Andrewは、全ての国民に月間$1,000の“Freedom Dividend”を提供すべきだと主張した。これだけではとても生活は賄えないが、少なくとも低所得者層の生活を支える糧にはなる。パンデミックによって最も大きな被害を受けるのは、これらの人達である。貧困はメンタルを破壊し、ドラッグや銃撃事件やDVや様々な犯罪を創出する。

Dorseyは5月のAndrewのポッドキャストに出演し、UBIの有効性を訴えている。「最低限の収入が保証されることで、人々は心の平静を保ち、新しい世界に向かうための学習を進めてゆける」と彼は言う。DorseyがGiveDirectlyに寄付した資金は、パンデミックによる打撃を受けた低所得家庭への現金給付にあてられた。また彼は、Andrewが設立した低所得者家庭を救済する基金のHumanity Forwardにも500万ドルを寄付している

UBIの効用は?

効用に関しては、以下の5つのポイントがあり、私が書いたブログに詳細を記してあるので、時間がある時に読んでもらえたらと思う。敢えて、もう1つ重要な点を付け加えるとすると、通常低所得者層は、給与から給与と経済的に綱渡り状態で暮らしている。そんな彼らにとってUBIは、「どんな時でも定額の給付金が入り、それによって心に余裕が生まれて、困難に陥った時にそれを乗り越えようとポジティブな心構えが生まれる」という効用も大きいと思う。

1) 貧困の消滅

2) 広がる富の格差の中で社会を下支えする人達へのサステイナブルなサポート

3) 女性の家事労働といった無償労働の可視化などで男女格差が緩まり、女性の経済的な自立への道ができる

4) 都市の人口集中緩和や地方都市の評価増などで家族が暮らしやすくなる

5)AIや自動化による雇用喪失によって失業した低賃金労働者へのサポート

UBIの財源はどうするのか?

前述のStockton市長のTubbsは、財源に関して様々な解決策を上げており、「Dorseyのような富裕層の税率を引き上げるのも一つの手段だし、2017年のTrump政権による減税策を廃止すれば、年収12万5000ドル以下の全ての米国世帯に500ドルを給付できるだろう。さらには、膨らみすぎた防衛予算を引き下げることでも資金確保には可能だ」と言う。彼は「人々や社会にセーフティネットをもたらす新たな政策が求められて今、重要なことは、まず政治的決断を下し、物事を前に進めていくことだ」と指摘する。彼は今回のUBIのテストプログラムを成功に導き、現金給付の試みが、連邦政府レベルに広がることを望んでいる。

財源の1つの方法として富裕層の税率の引き上げが言及されているが、これに関しては1つ朗報がある。7/13、世界の富豪83人が、各国の政府に対して自分たちのような富裕層に大幅に増税するようにと署名した公開書簡が公表された世界の富豪でつくる団体「Millionaires for Humanity」には、ディズニーの一族であるAbigail and Tim Disneyなどを含む、富裕層、起業家、投資家らが参加し、富裕層に増税し、富の格差の是正などに充てるべきだと訴えている。

まずは決断が必要

UBIはそう簡単に実施できないと多くの人は言うが、パンデミック対応として期限付きで、カナダ、イギリス、スペインは既にUBIを実施した。パンデミックの渦中で、時代はgroundswellともいうべき急速な変革を求めて動き始めている。これを具体化するための試みは、色んな所でなされている。

富裕層も応援する時代である。前進するためにアタマを絞って工夫すれば、良いアイディアは必ず出てくる。まずは決断である。

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コロナ禍でのアメリカ生活㉗「サバイバル脳の指令」

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若者を中心に感染は拡大、感染者数は290万人、死者数は13万人になる(2020/07/06現在)

米国では50州全てがビジネスを再開した後も、コロナ感染は一向に収束を迎えていない。政府の無策或いは科学を無視した指導もあり、マスクを着用せず、ソーシャルディスタンス(SD)を守らず、生活し始めた結果、若者を中心に感染者数や死者数は、うなぎのぼりである。独立記念日の週末では、フロリダは1万1,500人、テキサスは8,300人、カリフォルニアは5,400人という、1日の感染者数として新記録という、何とも酷い状況である。

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若者たちは、高齢者と異なり、自分達は感染しても大丈夫と高をくくっているが、若者たちの間でも症状が悪化して死に至るケースも出ており、今や注意深くなったシニアよりも、若者たちの感染が拡大している。

マスク着用を政治的意見の表明とする馬鹿げた考え方が横行し、科学的な事実を信じない人達が米国には多く存在し、コロナ禍は、とても収束といった方向に向かうとは思いづらく、刻々と病床は足りなくなっている。私は過去数か月間、1週間に1度の食料品の買い出し以外は、余程の必要性に迫られない限り外出せず、外出時のマスクとSDは必須の行為として順守して、社会的責任を果たしている。マスクとSDは、市民としての「Responsibility & Accountability」だと思う。

Note :「責任」と訳される2つの言葉の違い。「responsibility」:これから起こる(=未来)事柄や決定に対する責任の所在。「誰の責任であるのか?」という時に使われる。「accountability」:すでに起きた(=過去)決定や行為の結果に対する責任、またそれを説明する責任。「誰が責任を取るのか?」という時に使われる。「responsibility」は他の人と共有することは可能だけど、「accountability」は他の人と共有できないという点が、この2つの言葉の違い。

「サバイバル脳」が不安解消のために「Bingeだらけの行動」を指令する

このパンデミックで多くの人達は「binge-watching(映画やTV番組などのコンテンツを一気に視聴する)」のように、飲み過ぎ、食べ過ぎ、ソーシャルネットワークし過ぎ、Zoomし過ぎ、など、こうした行為で、不安やストレスを解消している。また多くの人達は、今ビジネス再開で、 “Quarantine 15 (在宅太り)”になってしまい、慌てて大きいサイズの服をオンラインで購入するといったコトが起きている。この"Quarantine 15"は、元々 “freshman 15” という言葉で、「大学の新入生は15ポンド(約7キロ)太る」というものからきており、”Quarantine”は、もともと病気を拡大させないための隔離を意味しているが、「self-quarantine」のように外出自粛という意味で使われ、コロナ禍は米国では「Covid 19」と表現する。

以下は、不安解消のための気晴らしをするという人間の行為は、もともと人間に備わっている「サバイバル脳」に由来するという、ブラウン大学公衆衛生大学院准教授のJud Brewerの記事から抜粋してみた

生物学的に「サバイバル脳」は、食べ物と危険の両方を探す役割を担っている。私たちの祖先が新しい食糧源を発見した時、胃から脳に一連のシグナルが送られ、ドーパミンが分泌した。そして将来見つけるのに役立つよう、食べ物が存在する場所の記憶が形成された。危険についても同じことが言える。祖先たちが初めての場所に行く際は、自分が食糧源にならないように、目を凝らして、動くものを警戒する必要があった。不確実性が彼らを助け、それゆえ人間は種として生き残っている。 しかし、不安と気晴らしの関係を理解する上で重要な点がある。その場所をよく知れば、そこが危険であろうとなかろうと、不確実性が低下するということである。つまり、私達の祖先は一つの場所を繰り返し訪れることで、緊張を緩和することができた。 このことが今何を意味するのか? それは、確実性が高まると、脳のドーパミンの使い方が変わるということである。例えば、物を食べたり、危険な場所を見つけたりした時に、ドーパミンを放出するのではなく、そうした出来事を予期した時に放出するのである。 ドーパミンは、一般的な文献で呼ばれているような「快感分子」とはほど遠い。行動が一旦学習されると、ドーパミンは一貫して、行動したいという渇望や衝動と関連づけられる。進化の観点から、これは理にかなっている。先祖たちは一度食糧源の場所を知ったら、そこへ行って食糧を手に入れるよう、駆り立てられる必要があったからである。

Brewer教授に言わせると、我々は現在のパンデミックに対して、全く同じことを行っていると指摘する。

退屈や不安を感じると、人々はお菓子を食べる、ニュースフィードをチェックするといった衝動に駆られる。胃や胸に不快感が生じ、何かがおかしいと気づく。脳が「何かをやれ!」と命令し、特定の行動つまり気晴らしをすると気分がよくなる。大事なことをやるべき時、YouTubeでかわいい子犬の映像を(繰り返し)見るのは、脳にとって当然の選択で「サバイバルの基本」である。気晴らしをすることは、古代に危険や未知のものを回避していたのと同じなのである。不確実性は不安を生じさせ、不安は何らかの行動を促す。 その際の問題は、多くの場合、気晴らしのための行動が、不健康で役に立たないという点である。永遠に食べ続けたり、酒を飲み続けたり、Netflixを見続けることはできない。実際、それをやるのは危険である。脳がそうした行動に慣れてしまい、最終的にいつもの成果を得るために、もっとやらなければならないからである。サバイバル脳は人間を助けようとしているが、断ち切ることが困難な習慣や、依存にすら向かわせていることに、人間は気づいてない。

 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"をどのように断ち切るか?

Brewer教授は、 "Anxiety-Distraction Habit Loop(不安―気晴らしの習慣ループ)"に陥っている場合、自分が望まない習慣をつくり出し、それを継続させる"Trigger-Behavior-Reward(引き金―行動―報酬)"というプロセスを明らかにする必要があるという。 引き金(不安)、気晴らしの行動(食ベる、酒を飲む、テレビを見る)、報酬(気晴らしをすることで気分がよくなる)を認識する。 次に、その習慣のループがどれだけの報酬をもたらすかを考える必要がある。脳は報酬のレベルに基づき行動を選択する。無理に食べないとか、ソーシャルメディアをチェックしないようにするのではなく、自分の行動が招く精神的・身体的な結果に焦点を当てる。その短時間の気晴らしで、どう感じるか?どれくらい続けるのか?タスクを完了できずに不安が増すなど、裏目に出る結果をもたらす影響はあるか?といった点である。 注意すべきは、すべての気晴らしが悪いわけではないということで、問題となるのは、求める報酬が得られなくなった時である。報酬のレベルは典型的な逆U字型のカーブを描くので、ある時点で気晴らしの楽しさは頭打ちになり、そこから先は下降し、落ち着きがなくなって不安な状態に戻り、また別の楽しいことを探そうとする。

そして、このプロセスの最後のステップが「BBO(Bigger Better Offer:より大きくて、よりよい試み)」を見つけることである。脳は報酬のレベルがより高い行動を選択するので、悪い習慣よりも報酬レベルが高い行動を見つける必要がある。 その際、必ずしも新しい行動を選択する必要はない。有益から有害に変化した時点で、その行動をやめることもいいと教授はいう。

自分の不安およびその解消方法を認識する

不安解消のための気晴らしは、誰も必要だが、その習慣化或いはちょっときつい言い方だが、それに依存し始めると厄介な問題となる。日本は世界でも稀有といっていいほどの、パンデミックにおける特殊な位置づけの国である。世界中の科学者が、日本のこの感染状況の原因を分析しようと色々言及しているが、みんな首を傾げるばかりである。東京都で1日に100人増えたといった情報を目にするが、米国在住の私として、まあ何と微笑ましい牧歌的な国なんだろうと思う。だから、日本ではこの問題はそれほど重視されないのかもしれない。

但し、米国のパンデミックの長期化は自明の理で、いつどんな形で収束するか予想がつかない。人々の不安は消えず、「サバイバル脳」による指令によって、気晴らしは悪習慣になる可能性が否めない。まず、我々がやらなければならないことは、長期化する以上、不安解消で実施している行為が、本当に自分たちに「報酬」をきちんと与えているかどうかを検証して、高い結果を得られない場合は、より良い行動を見つけることから始めるしかない。

口で言うのが簡単だが、水は低きに流れるがごとく、人は手軽なものに手が出る。だからといって自分を甘やかして放任するわけにもいかない。兎に角、まずは何事もBingeし過ぎないように自戒したい。

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アメリカの現実⑦「広告主は本気でヘイトスピーチや虚偽情報を載せるソーシャルメディアに怒っている」

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大企業の広告ボイコット運動によって、7月以降プラットフォーマーは本当に変わっていくのか?

Unileverは昨年Facebookに4,230万ドルの広告出稿をしているが、6月26日、ヘイトスピーチや米国の分断を煽るような虚偽のコンテンツを放置するFacebookに関して、年末まで広告出稿を中止すると発表した。この出稿停止の対象メディアは、Facebook、Instagram、Twitterである。またCoca-Colaは、ソーシャルメディア(Facebook, Instagram, Twitter, YouTube and Snap) のグローバル広告を、少なくとも30日間出稿停止すると発表している。電通傘下の360i、IPG Mediabrands、MDCのMedia Kitchenといった広告エージェンシーの幹部も、クライアントに対し、Facebookに投じる広告費を見直すよう助言している。

名誉毀損防止同盟(ADL)や全米黒人地位向上協会(NAACP)などの市民団体による、7月のFacebook広告のボイコットの呼びかけに、Verizon、Ben & Jerry’s、Patagonia、 VF、North Face、Eddie Bauer、REIなどが参加を表明している。

アップデイト:参加企業は6/29時点で230社まで増えた。上述以外の大企業では、Microsoft、Ford Motor、Clorox、Denny’s、Levi Strauss、Starbucks、Diageoなども参加している。

ハッシュタグ「#StopHateForProfit(憎悪を利益にするな)」をもとに、2020年米国純売上高310億ドル(5%増)という予測(eMarketerによる)のFacebookに対して、鋭い非難の声を突き付けている。 ADLは6月25日、広告主宛ての書簡で「見え透いたうそ」が含まれる政治広告の削除をFacebookは繰り返し拒否したと述べている

以下の表は、2019年のソーシャルメディアの広告レベニューである。Facebookはおよそ700億ドルのレベニューを得ており、この収益の元にヘイトスピーチや虚偽情報コンテンツがあることへの怒りは大きい。

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FacebookのCEOのMark Zuckerberg (MZ)は6月23日、大手広告主や広告代理店幹部との電話会議に参加し、広告主の懸念を傾聴しながらも、Facebookの中立の原則を繰り返し述べており、FBの幹部はヘイトスピーチを検出できるAIの開発を継続するなど、ヘイト対策への投資を増やすことを約束した。こうした状況下で、ついにFacebookは、Unileverの発表の1時間後、Unileverの社名は出さなかったが、MZ自身が早急の改革を図ることを発表した

毎回広告ボイコットからするりと逃げていたプラットフォーマーだが、今回は簡単に逃げられない

アイロニカルな話だが、800万以上の広告主を抱えるFacebookは、中小企業の広告主も多く存在し、こうした大広告主による広告ボイコットは、彼らにとってはその隙間に入り込めるチャンスともいえる。Mom & popの小規模企業にとって、莫大なオーディエンスにリーチできるFacebookとInstagramは、容易に使えるセルフサービスの広告プラットフォームである。それも含めて、過去何回もFacebookへの広告ボイコットは起きていたが、Facebookはのらりくらりと、矛先をかわして、広告主の広告ボイコットという抗議は長続きはしなかった。但し、今回の規模と拡大と真剣さは過去に例がない。プラットフォーマーは、これにどこまで対処するかは、今の時点では不明であるが、今回は逃げられないと思われる。

従来の広告主の広告ボイコットは主に影響力の行使で、ターゲティング、測定、詐欺などの広告に特化した変更を、プラットフォーマーに要求した。但し、今回の広告ボイコットは、広告主は自らを社会のために正しいと信じていることを行う存在として位置づけて、行動を起こした即ち企業は、自らのPurposeのためには、例え一時的に広告停止によって利益を落としても、自らの信じる価値観のためならば、それをすべきだと考えて、行動を起こそうとしている。

ソーシャルメディアの果たす役割の大きさが広告主を動かす

6月2日、何百もの広告主が「Blackout Tuesday」に、BLM(Black Lives Matter)を表明しながら、人種差別に抗議して、ソーシャルメディアに黒く塗りつぶした四角い「黒い羊羹(注:これは私の表現)」を投稿した。TinuitiによるPathmaticsのデータ分析によると、Facebookにはこの日、通常の40%の広告費しか支出されなかったという。

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世界広告主連盟(WFA:World Federation of Advertisers)のCEOは、「今回とこれまでの違いは問題の性質である。私が感じているのは、社会が分断し、大きな混乱を経験している今、ソーシャルメディアのプラットフォームが社会で果たす役割についての関心が高まっていることだ」と言う

11月の米国の大統領選挙もあり、今回の広告主の動きは、社会に対するソーシャルメディアの巨大化する影響力への楔であり、今までとは異なり、社会的なうねりと同調しながら、その影響力を利益の簒奪のみに使うコトに反対の狼煙を上げている。Facebookを始めとするソーシャルメディアが、どのように対処していくかは、ここでしっかり見極める必要がある。

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アメリカの現実⑥「変化を求められる広告エージェンシーの企業文化」

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日本では理解し難いエージェンシー内の白人中心文化

今朝目にしたDigiDayの記事 「エージェンシーの「白人文化」に、黒人社員が変革を求める:「プレッシャーは効いている」」を読んで、すっかり忘れていたが、自分も24年前、米国の広告代理店San Francisco McCann Ericksonで勤務していたことを思い出した。1996年私は、デューティフリー製品を販売するDFS Group担当のAccount Supervisorとして雇用された。DFSのターゲットオーディエンスは、日本人買い物客で、広告は日本の雑誌に掲載することがメインだったので、米国に移住したばかりで職探しに苦労していた私は、自分のStrengthを発揮できると有頂天になった。但し、実際はメディアバイイングを日本のマッキャンエリクソンに委ねていたことから、日米のグループ会社は利害関係が異なり、私はリエゾン的な立場で、両者から球を投げられ、それを捌くという、非常に難しい立場だった。

当時日米間のコミュニケーションは電話とFax主体で、毎晩日本の媒体担当と電話で話し、SFから出るCaltrainの最終の1本前の22:35発に乗りたいが、殆ど乗れず、最終の0:05発に乗ることが多かった。朝はまだ星が出ている時間に家を出て、夜は最終便だったので駅員にもすっかり顔を覚えられて、また今晩も遅かったねと声を掛けられるぐらいだった。

嫌な思い出の1つは、週に1度の英語だけで話す日米のチーム電話会議で、米国チームは英語でまくし立て、日本チームは殆ど反論しないという流れだったが、会議終了間際に日本の担当が「大柴、これが終わったら残れ。日本語で話をつける」と言い放った瞬間である。米国チームは「今、彼は何と言った?」と聞くので、仕方なく私は「彼は私だけ残って日本語で話を詰めたい」と答えると、全員が激昂して「絶対に電話に出てはいけない。彼は会議で全員に話すべきで、ひさみ1人に日本語で話しあうというのはルール違反だ」とわめきだした。私は日本に送る原稿入稿の時間がかなりきついので、今晩彼と話さないと間に合わなくなると説明して、結果日本からの電話を取った。日本の担当者は怒りに震えた声で、米国チームの勝手な言い分を罵り、私はいやいやながら彼を宥めて、何とか原稿入稿を終わらせた。

今思えば、当時の私は日本から来たばかりで、英語がフルーエントではないというコンプレックスによって、米国エージェンシーというプリマドンナ(自分が目立つ・注目されることだけを望む人)だらけの業界で、チームリーダーでありながら、チーム内で嫌われることを恐れて「良い人」であろうと、必死にもがいていた。今日書こうと思ったエージェーンシー内の人種差別とは異なるが、「英語が出来ないというだけで、まるで能力ゼロのように見られる外国人という差別」の中で苦しんでいたのは事実である。

特にエージェンシーでクライアントとの窓口となるAccount SupervisorやAccount Executiveは、24年前は白人が殆どで、それも外見の良いような人が担当者となって、クライアントに通っていた。San Francisco McCann Ericksonで、私が覚えている限りでは、営業は全て白人で、それ以外の部署にアジア系が1人、ヒスパニック系が1人、アフリカ系は皆無で、外国人は私1人ということで、全て白人中心で回っていた。

エージェンシーの中の黒人社員は「白人文化に馴染んで同化するように仕向けられる」

米国の人気Sitcom television seriesに「Black-ish」という番組があるが、黒人のアッパーミドルクラスの家庭を描く、2014年から続く人気番組である。主人公のAndre 'Dre' Johnsonは、白人ばかりのエージェンシーで唯一の黒人のエグゼクティブで、黒人をターゲットするプロジェクトでは、Strategistとして、白人チーム内で常に意見を求められる。彼は白人の上司及び同僚達のステレオタイプな黒人像に、いつも呆れて激昂しながら、エージェンシー内で苦労している。

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このTV番組で訴求されるメッセージと同じことが、今朝のDigiDayの記事の中に書かれてあった。

あるエージェーンシーグループに勤務する黒人のStrategistであるBrandon(仮名) は、仕事は好きだが、常に黒人社員が「白人文化に馴染んで同化する」よう仕向けられる、エージェンシーの「一枚岩」文化に悩ませられているという。複数のエージェンシーで経験した人種差別的カルチャーについて、以下のように語っている。

“I’ve always been like, ‘I can take that, I can deal,’” “But right now, the combination of what’s happening with how my agency has handled everything up to this point—to be candid, I feel disrespected. We’ve received a number of emails but not one of them has any points of action. So obviously when the fifth one comes through, I’m like, ‘Ok, now you’re insulting my intelligence.’”「『これくらい受け入れられる、問題ない』と、いつも自分を納得させていた」「だが、いま起こっている事態と、エージェンシーがこれまで問題にどう対処してきたかを考え合わせると、はっきり言って私は軽んじられてきたと思う。(会社から)たくさんのeメールを受け取ったが、どれひとつとしてアクションポイントを示していなかった。だから、5通目のメールを見たときは、『私の頭が足りないと思っているのか』という気分だった」

広告業界に勤務する黒人社員達の改革を求める公開書簡

今世界中でBLM(Black Lives Matter)の抗議運動の嵐が吹きすさぶ中、Brandonを含む広告業界に勤務する600名の黒人社員達が「エージェンシーの変革を求める公開書簡に署名したこれを主導したのは、Periscopeのグループ戦略ディレクターのNathan Youngと、Aerialistの創業者のBennett D. Bennettで、黒人社員とそれ以外の有色人種の社員が働きやすいよう職場環境を改善するための12の具体的なアクションを列挙した。

これはエージェンシーのリップサービスや旧態依然ぶりに辟易している社員たちが、真のDiversity  & Inclusionのために変化を求めて、ボトムアップの圧力をかける事例である。この書簡で社員たちはエージェンシーに、黒人社員の割合を増やす努力、Diversityに関するデータを公表することを求めている。エージェンシーがどう対応するかは、いまのところ未知数である。

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Black agency professionals have an unequivocal response for U.S. advertising agencies: release your diversity data and reform your practices now.
Kacy Burdette

記事によれば、IPG、WPP、Omnicom Group、Publicis Groupe、電通からは現時点で回答は得られていない。唯一Havasは、フランスの法律で社員の民族的出自に関するデータの収集は禁じられているものの、「彼らが作成したリストを指針として利用し、包括的な取り組みに基づいて、ビジネスにおける意思決定を行う」としている。

もうエージェンシーは社内の人種差別を無視出来ないレベルに近づいている

このエージェンシーにおける人種差別は、長い間言われてきたことで、ことさら新しいコトではない。ただ往々にして、エージェンシーが実施した主な対策といえば、Diversity & Inclusionの担当責任者を採用して、彼らに丸投げするだけで、成果をあげるために必要なリソースを提供してこなかった。要は、誰も真剣に取り上げて改善する意思がなかったといえる。

但し、今回はそうはいかない。

すでにGorge Floyd事件から3週間以上経つが、抗議行動は収まらず、BLMを求める一般の眼は、政府・行政・警察のみにとどまらず、お為ごかしの言葉のみでBLMに賛成する企業に対しても、「本当に人種差別や社会的不平等撤廃を行動を伴って実施する気はあるのか?」と鋭い眼差しを投げつけている。そうした企業をクライアントとして抱える広告業界が、いつまでも「白人中心文化」というぬるま湯につかっているとしたら、クライアント側は、そうしたエージェンシーを切っていく。これは今後間違いなく起こりえる現実である。

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アメリカの現実⑤「今企業は真剣にBlack Lives Matterへの対応を迫られている。今回は逃げられない」

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米国の「Gray rhino(灰色のサイ)」と呼べる「人種差別問題」はついに暴れだした

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米国企業は、コロナ禍によるパンデミックの次に、ついに暴れだした「Gray lino(灰色のサイ)」ともいうべき人種差別問題への対応を迫られている。金融業界では、「Black swan(黒い白鳥)」と「Gray rhino(灰色のサイ)」という2つの言葉が良く使われる。「Black Swan」は、1697年にオーストラリアで黒い白鳥が発見されたことによって、「白鳥は白い」と思っていた通念を破壊したことに由来して、常識ではありえない異常事態が、社会に大きな衝撃を与えてしまう現象をいう。

これに対して「Gray rhino」は、普通サイは灰色なので、特別に目を引く現象ではないが、一度サイが暴れ出すと、手が付けられないほど大きな被害をもたらす現象を指す。また「灰色のサイ」は、我々が日頃から認識しているにも拘らず、直接自分達に影響を与えないと勝手に解釈していることがポイント。米国では日常化している「人種差別問題」は、この「灰色のサイ」状態となり、問題認識はされていたが、長い間誰もが恐れて手つかずの状態であった。それが「George Floyd死亡事件」がトリガーとなって、ついに「灰色のサイ」は暴れだした。

米国トップ100企業は、まず反人種差別のために16億ドルの寄付を誓った

今回の「Black Lives Matter(BLM)」への企業の対応を、パブリックは今しっかりと見つめている。企業が今までのように、嵐が収まるまで首をすくめているといった、日和見的な態度を見せるのを許さず、企業に具体的な動きをするよう、要求している。企業は、巨大化した「灰色のサイ」に対峙した結果、まずお金を使うということで、自らの立場を明示する方法に出た。

米国のトップ100企業は、人種差別と戦うために16億ドル以上のお金を費やすコトを誓っている。金額的にダントツのトップは、Bank of Americaの10億ドル、2番目は、Walmart、Camcast、Appleが、各々1億ドルずつ出すことを誓った。現時点ではトップ100企業のうち42社は寄付を誓っており、10社が全体の寄付の90%を占めている。

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企業各社のBLMへのメッセージは、どれも「四角に切った黒い羊羹の金太郎飴状態」

George Floyd事件発生後のBLMムーブメントへの企業の対応は、以下のAmazonのTweetのように、四角い黒い羊羹を切った金太郎飴状態で、ソーシャルメディアは黒の四角だらけになった。各社ともメッセージで、人種差別と戦うコトは表明しているが、人種差別の根本にある「白人至上主義」といった、本質的な問題に触れるものは皆無に等しかった。実際、誰もが簡単に「人種差別は良くない」と言えるが、米国の社会、経済、文化の中に制度的に組み込まれた黒人差別の問題点を直視して、どのように解決するか、またどのように実施するかを言及するには到底至っていない

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黒人不在ー経営レベルに欠けるDiversity & Inclusive

大企業における黒人の経営レベルの参画および昇進は、長年多くの企業がお題目のように唱えているが、一向に改善されていない。Fortune 500の企業の中で黒人のCEOはわずか5人で、44位のLowe's、69位のMerck、81位のTIAA、438位のM&T Bank、485位のTapestryの5社のみで、Fortune 500の全CEOの1%でしかない。米国人口でアフリカ系アメリカ人は13.4%を占めるが、1999年以来Fortune 500の歴史で、僅か18名が黒人CEOで、2012年が最多で6名だった。勿論CEOだけに限らず、大企業の経営層に黒人が食い込む割合は非常に低い。 

Appleは今回人種差別撤廃のために1億ドルの資金を投入すると誓っているが、Appleの12人のシニアのリーダーたちの中で、黒人はこの人種差別撤廃のイニシアティブを指揮するLisa Jacksonのみである。彼女は、Obama政権時代に米環境保護局(EPA)を率いた経歴を持ち、2013年にAppleに入社している。CEOのTim Cookは、“Things must change and Apple is committed to being a force for that change,”とTweetしているが、実際にどこまでそれが可能かどうかは、今の時点では何とも言えない。

白人至上主義の問題に言及するBen & Jerry’s

そうした中で、非常に明解に白人を優遇する歴史的な背景を指摘しながら、反人種差別を強く訴えるのが、Ben & Jerry’sである。

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彼らはコングロマリットであるUnileverの傘下ながら、独自のCEOと役員会を持つ唯一の独立した組織で、自社の価値観に沿った政治的な見解を長年主張してきている。彼らは、米国法務省に対して公民権局の復権を、議会に対しては、1619年黒人奴隷が初めて北米に連れてこられた時から、現在に至るまでの差別の影響を明らかにするため、委員会設置の法案を可決するよう求めている。

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Ben & Jerry'sの首尾一貫した言動と行動の一致によって、初めて企業として発言する「Black Lives Matter(BLM)」という問題の意味が認識できる。

もう誰も暴れる「灰色のサイ」から逃れられない

人種差別問題に関して議論するならば、まず議論の参加者に黒人が参加すべきで、残念ながら多くの場合、当事者たる黒人は不在のまま論議されている。当然、人種差別の根っこにある、米国の負の遺産である黒人奴隷と白人至上主義の問題に踏み込んだ議論が出来ない、或いは口を閉ざしてしまう。白人にしてみると、自分を加害者側に置く、歴史の読み方には苦痛を伴うし、出来ればそこを通らずに議論したいというのが本音だと思う。

但し「灰色のサイ」は既に暴れ始めており、通常のやり方では、このサイを鎮めることはできない。特に、MillennialsやGeneration Zといった米国人口の半分を占める層は、Diversity & Inclusiveを重視する価値観の中で育った。彼らは、幼少時から周囲のマイノリティ(人種や性的志向性の違いも含めて)を認め、彼らを含めて全ての人間は平等であるべきと考え、BLMを口にすることへのためらいはない。彼らは、今、企業をじっと見つめて、「あなたはこの問題をどう考えて、それをどのように解決するのか? またそのためにどんな行動をとるのか?」を聞いている。

企業側は、四角い黒い羊羹をソーシャルメディアに貼り付けて、お金さえ出せば、コトが済むと思っているとしたら、それは間違いで、今回は即座に「No」と否定されて、顧客は離れていく。もう誰も「灰色のサイ」から逃げられない。

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