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21世紀はスーパーカスタマイズの世界(Super-Customization)
*ベイエリア最新事情2005年4月18日*

キーボードの「Enter」の文字が消えかかる、ノンストップ・ワーキングの日々

Best Buyのコンピュータ部隊「Geek Squad」

2月17日に日本出張から戻ってきて以来、ノンストップ・ワーキングの日々が続いています。コンファレンス参加やミーティングのための米国内の出張、日本からのビジター、日経ビジネスからの取材、University of San Francisco(サンフランシスコ大学)のMBAクラスでのレクチャー、シリコンバレーの日本人起業家支援の講演など、おしゃべりな私は話すことも多く、またその間に、いくつかの調査プロジェクト、雑誌と書籍用のコラム、JaMのコラムやニュースレターなど、書く方も尋常でないくらいに書いています。すでに、私のタイプを打つ利き腕の右手はかなりガタがきており、キーボードの「Enter」の文字は消えかかっていいます。また、私のデスクトップ、ラップトップの2台のコンピュータはその酷使に対して、「いい加減にして欲しい」という警告を発するかのように、OSの立ち上がりがスローになってきています)。

コンピュータ・フラストレーション

そんな中で、今朝の新聞で目についたのが、私も含めて、いかに人々が、コンピュータに対してフラストレーションを抱いているかという記事です。2003年の調査によると、アメリカ人の3分の2はインターネットを使用し、そのうち87%は自宅でオンラインを使っています(出典:Pew Internet and American Life Project)。この数から想像できるように、アメリカの「現代の疫病」と言われるこのコンピュータ・フラストレーションは、一度もコンピュータを正式に学んだことがない人々が、常にその不可思議なマシーンと日々対面しなければならない苦しみから来ており、「Computer Rage(コンピュータへの怒り)」と言われるほど、その辛さは精神的に人々を苦しめています。以下はそうした人々がコンピュータに対して取った驚くべき行動です。

  • PCに対してしばしば中指を突き立てる(注:アメリカでは、絶対にこれは他の人にしないでください。相手は激怒します)
  • しょっちゅう、 PCに対してののしりの言葉をはく。
  • 一度だけだが、スナイパー(暗殺者)用のガンでコンピュータを撃ったことがある。
  • 古いモニターをゴミ箱に思いっきり投げつけることに、喜びを見いだした。
  • 何かコンピュータ上で自分を怒らせることが起きると、しばしば、マウスを激しく握りつぶそうとする。もっと怒り狂った時は、マウスをテーブルに叩きつける。さらに怒った時にはコンピュータを蹴っ飛ばす。
  • 自分がレストランのマネージャーだった時、コンピュータが本当に遅いので、一度だけ、フライ用調理器具に投げ込んだ。コンピュータのすべてのパーツは溶けて、フライ用調理器具を入れ替える羽目になった。
  • ホッケー用のスティックで古いモニターを壊して、非常な満足を得た。
  • コンピュータにガソリンをかけて、燃やした。
  • キーボードをプールに投げ込んだ。沈んでいくキーボードを見るのは楽しく、さらに楽しかったのは、それを乾かして、また使えたこと。

出典:University of Marylandの心理学のKent Norman(ケント・ノーマン)教授による調査
http://www.lap.umd.edu/computer_rage/

ノーマン教授によると、昨年の調査ではおよそ 20% の人がコンピュータに対する怒りのために、コンピュータを床にたたきつけたことを認めており、上記以外に電子レンジに入れて破壊したり、バーベキューグリルでパーツを焼いたり、さらにその怒りを配偶者に向けるなど、「Techno-frustration denial(テクノロジー・フラストレーション否認)」と呼ばれる不適切な行動が増加しています。

コンピュータはTechno Geek(テクノロジー・オタク)用に設計されている

もともと、コンピュータは、あの暗いDOSの画面を見て喜ぶような「Techno Geek(テクノ・ギーク)」を対象に設計されており、テックサポートのいない家庭での使用には向いていません。特にシンプルな機械的な問題に限らず、最近のコンピュータウィルスのアタックやスパムの増加に伴い、問題対応ソフトのインストールやそれに関連した様々なソフト同士のコンフリクト、さらワイヤレスネットワーク、DVDやヴィデオの利用など、コンピュータ関連トラブルはエンドレスです。この増加する一般の人たちのフラストレーションは、「現代の疫病」として米国社会に蔓延しており、その解決策として、いっそ「テクノ・ギーク」自身によって、家庭内でのコンピュータトラブルを解決させようとする、ソリューション・サービスが出てきています。

Double Agents(ダブルエージェント:コンピュータ部隊)を設置したBest Buy

1,240億ドルの米国消費者電化製品市場のおよそ16%を占め、2004年275億ドルのセールスをあげたコンピュータ・電化製品の小売チェーン Best Buy (http://www.bestbuy.com/)は、全米668の小売店に7,500人の「Double Agents (ダブルエージェント)」と呼ぶ、「Computer Squad(コンピュータ部隊)」を設置しました。価格競争では、Amazon、Dell、Wal-Mart などに太刀打ちできないと判断したBest Buyは、「Customer Centricity(カスタマー中心)」戦略を打ち出し、その一環として、2002年ミニアポリスのコンピュータサポート会社「Geek Squad(ギーク部隊)」を買収しました。彼らは複雑な製品群が並ぶ店内で、困惑するカスタマーを救出するエージェントのごとく、白のチューブソックス、クリップオンのタイというドレスコードで、店内はもとより、Best Buyのロゴの入った白黒のフォルクスワーゲンのビートルをドライブして、トラブルのある顧客の自宅に駆けつけます。すでにこのギーク部隊だけの店が、コンピュータ業界のメッカ、シリコンバレーに設置されており、エージェントは激化するカスタマーのコンピュータ・フラストレーションの解消に取り組んでいます。

21世紀はスーパーカスタマイズ時代

Best Buyの「カスタマー中心」戦略は、まさに時代のデマンドを映し出すもので、上記のギーク部隊に限らず、地域特有の顧客特性を分析し、小売店舗自身をその顧客層に合わせて、スーパーカスタマイズする手法を始めています。 Best Buyは、カスタマーのプロファイリングを徹底的に行い、自社のカスタマーが以下の5つのタイプで構成されていることを発見しました。ここで特徴的なことは、カスタマーの1人1人の具体的な人物像が浮かび上がるように、名前をつけて分析していることです。

  • Jill (ジル):サッカーママ(子育てにフォーカスする母親)
  • Ray (レイ):ファミリーパパ
  • Barry (ベリー):お金に余裕のある既婚男性
  • Buzz (バズ):テクノロジー熱狂者
  • 無名:スモールビジネスのオーナー

すでに67店を上記5つのタイプにセグメントして、カスタマーのライフスタイルに合わせて、店舗ごとに製品仕入れや店内のディスプレーを変えて、対応しています。21世紀のマーケティングのパラダイムシフトはすでに始まっています。「消費者」というマスで人間を捉える20世紀的概念はすでに消えかかり、「市場をコントロールするカスタマーたち」をいかに満足させるかが、マーケティングの焦点となっています。ギーク部隊も上記の店舗自身のカスタマイズも、すべて「顧客満足」という企業が行うべき最上のサービス提供です。カスタマーを満足させることによって、カスタマー自身がその企業のブランド・エバンジェリストになり、彼らの「Word of Mouth(WOM:口コミ)」が、マーケティングの援護射撃を始めます。カスタマーを生かせるかどうかが、21世紀で企業が成功するか否かの分かれ目になりそうです。




大柴ひさみ (Hisami Ohshiba)

1979年外資系広告代理店電通ヤングアンドルビカム(DY & R)に入社、外資系企業の広告マーケティングを16年間担当。1995年にカリフォルニアに移住し、米国大手広告代理店やダイレクトマーケティングの会社勤務などを経た後、1998年2月JaM Japan Marketing(http://www.jamjapan.com/jp/)を設立。2001年1月ビジネス拡大のために、JaM Japan MarketingをLLCとして組織変更する。海外市場進出を目指す日米企業を対象に、クロスカルチャーなナレッジをベースにマーケティング戦略の開発立案、市場調査分析、広告PR、ローカリゼーションを含むコンサルティング活動を提供。講演・執筆活動も多く手がけている。2003年2月初の書籍「ひさみの冒険」がひつじ書房より発行 (http://www.hisami.com)。ご意見・ご質問はhisami@jamjapan.comまで


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