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Money Back To Society: 「社会還元=アメリカ的なノブレス・オブリージュの意味」
(Money Back To Society: The American Noblesse Oblige)

*ベイエリア最新事情2006年7月10日*

世界第2位の金持ちが、世界第1位の金持ちに、4兆円を寄付する

無事に6/12(月)のMobile Marketing Conference 2006 (モバイルマーケティング・ コンファレンス 2006) でのプレゼンテーションも終わり、6/21、 2週間の日本出張からサンフランシスコに戻りました。最初に驚いたのは、6/28に発表された投資会社Berkshire Hathaway(バークシャー・ハサウエイ)の会長兼CEOのWarren Buffett (ウォーレン・バフェット)の「Bill & Melinda Gates Foundation(ゲイツ財団)」への寄付です。 総額440億ドル(6月末現在の株価で計算。日本円換算で、5兆1040億円)というとてつもない資産価値のある株式を 有するバフェットは、その85%(バークシャーのB株を1,000万株)、およそ374億ドル(4兆3,384億円)相当の株式を、 ゲイツ財団に寄付し、残りの60億ドル(6,960億円)分は、彼の亡くなった妻や3人の子供たちの名前を冠した4つの財団に 寄付することを発表しました。彼の決断の凄さは、彼自身の名前のついた財団はつくらず、さらに資産のほとんどを 自分の一族とは無関係のゲイツという他人の財団に寄付する「Egoless(無私)」にあります。一口に374億ドル (4兆3,384億円)と言いますが、これは現在の米国第2位のチャリティ財団、フォード財団の116億ドル(1兆3,456億円)の 3倍の金額で、歴史的に見ても、これほどの巨大な金額を一族以外の財団に寄付した例はありません。以下は、米国の 歴史にのこる企業家のチャリティ金額ですが、バフェットは、世界一の金持ちのビル・ゲイツを超える金額を、寄付する ことになります。(円換算:1ドル=116円)

  • Andrew Carnegie(アンドリュー・カーネギー:1902-1919):
         3億5,000万ドル(現在の貨幣価値では72億ドル:8,352億円)
  • John D. Rockefeller Sr.(ジョン・ロックフェラー・シニア:1889-1937):
         5億3,000万ドル(現在の貨幣価値では71億ドル:8,236億円)
  • John D. Rockefeller Jr.(ジョン・ロックフェラー・ジュニア:1927-1960):
         4億7,500万ドル(現在の貨幣価値で55億ドル:6,380億円)

      出典:Fortune Table, Sources: American Philanthropy By Robert H. Bremner

  • Bill & Melinda Gates:
         ゲイツ夫妻はすでに259億ドル(3兆44億円)を寄付して、財団はすでに290億ドル(3兆3,640億円)の資産を有する

世界一の投資家が選択した、最も投資効果の高いチャリティ行為

このニュースを聞いて、私が直感したことは、世界一の投資家として年間収入817億ドル(9兆4,772億円)の 企業を率いるバフェットは、今まで稼いだ莫大な個人資産を、最も効率的に「社会還元」する方法を、見事に見つけ出したと いうことです。投資家としてのプロの眼は、最も投資効果が高く、今後最も成功すると予想されるチャリティ財団である ゲイツ財団を選び、ゲイツ夫妻の若さとチャリティへの情熱に全てを賭けるという、破天荒ともいうべき決断をしました。 フォーチュン誌の6/25付けのインタビューによると、バフェットは、多くの金持ちが抱える問題の1つは、彼らがすでにピークを 超えて年老いており、資産をうまく生かす時間がないことだと指摘し、それを75歳の自分は、50歳のビル・ゲイツにパス できるので、非常にラッキーだと語っています。彼は、自分の死後、資産を最愛の妻のSusan(スーザン)の財団に寄付すると 決めていましたが、2004年に彼女を亡くしたことによって、現時点でベストな方法は、ゲイツ夫妻に託すことだと判断して、 決めたと語っています。個人的にも非常に親しい間柄で、バフェットはゲイツ夫妻のどちらかがアクティブにゲイツ財団で 活動している限り、寄付を続けると表明しています。

アメリカンドリームの具現者の責務「アメリカ的なノブレス・オブリージュ」

この世界第1位(ゲイツの資産:500億ドル=5兆8,000万円)と第2位 (バフェットの資産:440億ドル=5兆1,040億円)の資産家ビジネスマンが、その巨額の富を「社会還元」に おいて統合し、今後長期的に活かしていくというチャリティのM&Aは、アメリカという国の仕組みを示唆して いるように思えます。アメリカは、言うまでもなく、合衆国憲法の保障する自由と平等の元に作られた政治的な 枠組みによって成り立っている国です。そのため、諸外国のように富裕な王族も貴族も存在せず、アメリカン ドリームを具現化して成功した人が、その獲得した富を社会へ還元するという流れが、オーガニックに機能しています。 上記のゲイツ財団は、AIDSやマラリヤなどに代表される世界に蔓延する健康問題や米国の教育問題にフォーカスした 財団ですが、ロックフェラー、カーネギー、メロン、ゲッテイ、フォードなど、その他の多くの歴史的に著名な財団は、 音楽・芸術・科学など、さまざまな分野をサポートする財団を設立しており、かつての王侯貴族が果たした文化・ 芸術のパトロンの役割も担っています。これは、王侯貴族のNoblesse Oblige(ノブレス・オブリージュ:貴族と して果たすべく義務)*に通じるもので、米国版の王侯貴族であるビジネスの成功者は、この義務を果たすべく、 その富の社会還元を、米国市民の使命として行っています。

*Noblesse Oblige(ノブレス・オブリージュ:貴族として果たすべき義務):1808年フランスの政治家ガストン・ ピエール・マルクが最初に使った言葉。作家の塩野七生氏は、ローマ帝国1000年を支えたものは「ノブレス・ オブリージュ」であると指摘し、ローマ貴族は戦時に率先垂範して最前戦に出て戦い、公共の利益のために自らの 財産を社会に提供したと言っている。

以下の表は、ゲイツ財団の寄付金の使用項目と
2005年の他の財団の資産のランキング

バフェットの「目利き」からみて、ビル・ゲイツのノブレス・オブリージュは本物

バフェット自身は、王侯貴族とは程遠いライフスタイルの持ち主で、世界第2位の金持ちとは 思えない質素な私生活で有名です。ネブラスカ州のオマハに、1958年3万1,500ドル(365万4,000円)で買った家に 現在も住み続け、中古のシボレーを運転して、2005年のサラリーは10万ドル(1,160万円)と、莫大な報酬を得て リッチな生活を送る通常のアメリカのCEOたちとはまったく異なるライフスタイルを送っています。そんなバフェットが 見込んで信頼するゲイツ夫妻ですので、パブリックのゲイツ財団への関心や視点は、今後大きく変わっていくと 思われます。特にビル・ゲイツが先月発表した2008年7月にマイクロソフトから退くというニュースと合わせると、 彼の財団への情熱と真剣さを非常に強く感じます。両者ともこの決断はなんら打ち合わせがあったものではなく、 タイミングが合っただけだと言っていますが、そうだとしたら、バフェットの目利きにますます脱帽します。 マイクロソフトの独占的なビジネスのやり方で、ネガティブなイメージで見られがちなゲイツですが、彼は確かに 単なるテクノロジー・ギークではなく、アメリカンドリームの具現者として、歴史上最も成功した人の一人であり、 この天才的なビジネスマンは、自分の後半生を市民としての責務(ノブレス・オブリージュ)を果たすべく、 政府ができない世界の難題に立ち向かうようです。


ビジネスの成功は、そのゴールである「社会還元」の仕方で決まる

先週の水曜日(7/5)は、Enron(エンロン)の元会長兼CEOの64歳のKenneth Lay(ケネス・レイ)が、 10月からの刑務所生活を待たずして、心臓発作で急死したというニュースが流れました。彼はその刑期の長さから考えて、 残りの生涯を刑務所の中で過ごすはずでした。2001年当時600億ドル(6兆9,600億円)以上の市場価値があったエンロンは、 このレイを含む当時の経営幹部たちによって、株価の下落と倒産を招き、社員はおよそ21億ドル(2,436億円)の年金を一瞬の うちに失い、5,600人が解雇され、多くの株主に多大な損害を与えました。バフェットもレイもビジネスウィーク誌や フォーチュン誌の表紙を飾った米国を代表するビジネスマンでした。この2人の違いは、ノブレス・オブリージュか ノブレス・マラード(Noblesse Malade:オブリージュと対極をなす腐敗した貴族の意)かという、市民としての責務の 果たし方によって、大きな差が出たようです。


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大柴ひさみ (Hisami Ohshiba)

1979年外資系広告代理店電通ヤングアンドルビカム(DY&R)に入社、外資系企業の広告マーケティングを16年間担当。1995年にカリフォルニアに移住し、米国大手広告代理店やダイレクトマーケティングの会社勤務などを経た後、1998年2月JaM Japan Marketingを設立。2001年1月ビジネス拡大のために、JaM Japan MarketingをLLCとして組織変更する。海外市場進出を目指す日米企業を対象にクロスカルチャーなナレッジをベースに、マーケティング戦略の開発立案、市場調査分析、広告PR、ローカリゼーションを含むコンサルティング活動を提供。講演・執筆活動も多く手がけている。
大柴ひさみの初の書籍「ひさみの冒険」がひつじ書房より発行されています、詳細はこちらhttp://www.hisami.com)で。また、大柴ひさみの近況がわかるブログもゾクゾク更新されています。ご意見・ご質問歓迎します。



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