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| もう一つのPC 問題を抱えるアメリカ (Politically Correct?) *ベイエリア最新事情2005年8月15日* |
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押してはいけないホットボタン
アメリカ、特にここサンフランシスコ・ベイエリアでは、絶対に押してはいけない、危険なボタンがあります。サンフランシスコ(SF)は、市長自らが州法に挑戦して、ゲイマリッジ許可を市庁舎で実行するほど、「Progressive(進歩的)な」地域です。歴史的にも、ビートニク、ヒッピー、学生運動など、アメリカのカウンターカルチャーは、常にベイエリアから発生しています。こういう風土の中で「差別的発言」をすることは、核兵器の赤いボタンを押したようなもので、その危険度はその発信者個人の想像を超えて広がっていきます。ベイエリアの地元ラジオ局KNBRのホスト、Larry Krueger(ラリー・クルーガー)は、うかつにもそのホットボタンを押してしまい、8月9日の夜、同局のマネジャーとプロデューサーとともに、解雇されました。彼は、8月5日、今シーズン低迷を続けるサンフランシスコ・ジャイアンツに対して、以下のような発言をしました。
ジャイアンツの監督は70歳のドミニカ共和国出身のFelipe Alou(フェリペ・アルウ)です。彼は現役時代にジャイアンツで活躍した優秀なプレイヤーで、監督としての手腕は高く評価されています。このクルガーの発言には、「カリビアン(人種差別)」と「Old(年齢差別)」という2つの差別が重なっており、メジャーリーグにおける一大勢力であるカリビアンプレーヤーへの差別として、即座に全米レベルに広がりました。特にアルウは、今から50年前、人種差別が激しい南部のルイジアナで、ベースボールプレイヤーのキャリアをスタートさせ、さらに異人種間結婚による差別も体験しており、彼の怒りはすぐに行動に移されました。彼は、「50年前の南部だったらわかるが、21世紀のここサンフランシスコで、こういった発言が出たことに、非常に失望した。今のラテン系の若い人たちが自分が歩んだ苦難を味合わせないためにも発言する」として、クルガーの謝罪も受け入れず、KNBR局への出演も拒否しています。このKrueger Gate(クルーガー・ゲイト:ウォーターゲイトをもじっている)は、1999年のスポーツイラストレーテッド誌のインタビュー記事で、アトランタ・ブレーブスのピッチャーJohn Rocker(ジョン・ロッカー)の「ゲイ、マイノリティ、外国人への差別発言」以来の大騒ぎとなっています。 差別を意識する国アメリカ アメリカほど、「差別」ということを、国民全員が意識している国は、世界でも稀だと思います。この場合は、「差別を意識する」ということが特徴的で、これはもちろん「差別がない」という意味ではありません。逆に「差別」がまだまだ多く存在するから、その問題を常にパブリックに持ちこんで、ディスカッションすべきだというのが、アメリカ的なやり方です。ここで差別されやすいのは、「人種(白人以外)」、「性別(女性)」、「性の嗜好性(ホモセクシュアリティ)」「年齢(シニア)」などですが、やっかいなことに、このマイノリティの世界にも、さらに差別の階層が存在するという現実です。 マイノリティ世界の差別の階層 サンフランシスコのゲイのメッカ「Castro(カストロ)」では、以前から白人ゲイによるアフリカ系アメリカ人のゲイ、および女性のゲイ(レズビアン)への差別が公然と行われています。サンフランシスコ・クロニクル紙の6/26付の記事によると、Castroの有名なバーBadlands(バッドランズ)が、アフリカ系アメリカン人のゲイに対する人種差別で、4月以来人権保護団体の調査が入り、6月末まで継続的な人種差別反対のデモンストレーションのピケが張られていたと報告しています。ゲイマリッジを実行し現SF市長(白人)が、アフリカ系アメリカ人の前SF市長に、この問題の仲裁を依頼するほど、問題は深刻化していました。記事によると、SFに20年間住むアフリカ系アメリカ人の52歳のレズビアンは、Castroのストリートで、「Big, Black Nigger, Bitch」という、ちょっと信じられないような差別用語で呼ばれたことがあると告白しています。 差別されるマイノリティがさらに差別する現実 悲しい現実ですが、「差別され続けている人たちの中には、そのマイノリティとしての苦しさの代償作用として、今度は自分が差別する側にまわることを求める」ようです。ゲイコミュニティにおける差別は、よりマイノリティである、アフリカ系やアジア系のゲイ、さらにレズビアンや性転換者などに向けられ、多層化した構造を構築しています。ちなみに人種だけに限らず、年齢に対する差別も存在し、「若くて美しい肉体を持つゲイ」を求めるコミュニティでは、年齢を経て肉体が衰えてきたゲイに対して厳しく、差別されたシニアのゲイは「カストロ」を離れるケースも増えていると、聞きます。 PC(Politically Correct)問題を抱えるアメリカの現実 アメリカで「PC」というと2つの意味を持ちます。一つは「Personal Computer(パーソナルコンピュータ)」で、もう一つは「Politically Correct(差別的表現をしない)」です。差別的表現は、「Not PC」あるいは「Politically Incorrect」という言い方になります。わかりやすい例で言えば、男性を想定する「Chairman(議長・会長)」という名称は、女性である可能性もあるから「Chairperson」とニュートラルな名称にすべきだといった、用語や表現における差別をなくそうとする動きです。通常はマイノリティ側がこうしたPC問題を俎上に上げてきますが、被害者意識の行き過ぎで、このままでは何でもない表現すら差別表現化されて、誰も何も発言できなくなる、という声も聞こえます。特に、現在の米国のマジョリティである白人男性にとって、非常にしんどいのは、彼らの何でもない発言が、マジョリティ側から出たために、時として曲解されてしまう現実です。多人種・多文化国家のアメリカが抱えるPC問題の複雑さは、「誰が誰に向かって何を発言したか」によって、あらゆる表現が差別表現化してしまう点です。 アメリカの未来の価値観を変える新しいジェネレーション ただ、最近のGeneration Y(ジェネレーション Y)のような若い世代を見ていると、本当にユースカルチャーが人種間を超えてブレンドしていることを実感します。Hip Hop(ヒップホップ)に代表される音楽やカルチャーは、人種間を軽々越えて幅広く深く浸透しています。また、異人種間の結婚もどんどん進行しており、Census(国勢調査)でも人種の欄にMix(ミックス)と入れておかないと正確な把握ができないぐらいに、多様にミックスアップした人種が生まれています。彼らが社会の中心になる今から10年、20年後は、アメリカ社会における「差別」という意識自体が大きく変わるような気がします。また、その頃は、ヒスパニック人口が白人を追い越して、ラテン系の人たち(移民)がマジョリティになるので、「マジョリティ」という概念すら変わっていくような気がします。その頃は、メジャーリーグでは、白人は確実にマイノリティになるので、前述の「クルーガーゲイト」事件も、旧石器時代的な昔話として語られると思います。 プエルトリカンだと思われた私 ちなみに、先月フロリダに出張した私は、ホテルのフロントに「プエルトリカンか?」と聞かれ、日本人だと答えるとかなり驚いていました。ユースカルチャーはすでに多くの人種間の考え方や価値観の交換によって、異なる要素がブレンドされています。いろんな人たちがどんどん混じり合って、人種なんかどうでもよくなる時代がもうじき来る、そんなことを最近実感しています。 |
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大柴ひさみ (Hisami Ohshiba) 1979年外資系広告代理店電通ヤングアンドルビカム(DY&R)に入社、外資系企業の広告マーケティングを16年間担当。1995年にカリフォルニアに移住し、米国大手広告代理店やダイレクトマーケティングの会社勤務などを経た後、1998年2月JaM Japan Marketing(http://www.jamjapan.com/jp/)を設立。2001年1月ビジネス拡大のために、JaM Japan MarketingをLLCとして組織変更する。海外市場進出を目指す日米企業を対象にクロスカルチャーなナレッジをベースに、マーケティング戦略の開発立案、市場調査分析、広告PR、ローカリゼーションを含むコンサルティング活動を提供。講演・執筆活動も多く手がけている。 大柴ひさみの初の書籍「ひさみの冒険」がひつじ書房より発行されています、詳細はこちら(http://www.hisami.com)で。また、大柴ひさみの近況がわかるブログもゾクゾク更新されています。ご意見・ご質問歓迎します。 |
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