Columns JaM Japan Marketing
価値観のキリギリス型化(?):アメリカ人の消費行動(Shopping Frenzy)
*ベイエリア最新事情2004年1月7日*

年明けのアメリカは、「ホワイトカラー・クライム」の公判ラッシュ

「どうやって6,000ドルもシャワーカーテンに使ったのか?」と、私はビジネスウィーク1月24日号を読みながら、真剣に自問自答し、我が家の20ドルのシャワーカーテンとの違いに、首を傾げてしまいました。このTyco International(タイコ・インタナーショナル)の元CEOのDennis Kozlowski(デニス・コズロウスキー)の消費行動は、通常の常識を超えており、彼の消費金額は、普通の人間にとってほとんどジョークのように思えます。彼は現在元CFOのMark H. Swartz(マーク・H・シュワルツ)とともに公判の最中で、会社と株主から6億ドルの金額を横領した罪で、30年以上の実刑求刑を検察側から受けています*(以下にその他のタイコの経営幹部の起訴状況をあげておきます)。彼は、すでにインサイダー取引で、87ヶ月間の実刑判決服役中のImClone(イムクロン)のSamuel D. Waksal(サミュエル・D・ワクサル)の次の「Big Fish(大物)」として注目を集めています。1月6日の新聞には、彼が2001年妻に500万ドルのダイヤモンドの指輪を会社のローンを通して購入したこと、彼の前妻が彼の家族と一緒に社用ジェット機を利用したことについて「前妻とは良い関係なのでジェット機利用は問題にならない」という、彼の当時のコメントが載っていました。

* コングロマリット企業タイコのスキャンダル

  • 2002年6月4日CEOのコズロウスキーは、1,320万ドルの個人所有の美術品の脱税容疑で起訴される。その前日釈明理由の公表もなく突然CEOを辞任。

  • CEO以外では、3,500万ドルの報酬をボードの承認なしに受けた幹部(Mark Belnick)や、2001年タイコが買収したCIT Groupとの合併の手数料2,000万ドルの報酬を得た幹部(Frank Walsh)が起訴されている。

  • いかに税金から逃れるかを経営戦略の柱としていたコズロウスキーのもと、2000年から2001年の間に150以上の子会社を、税金天国のバーミューダ、ケイマン諸島などに設立。CFOのシュワルツは、この経営戦略の正当性を裏付けるかのように「タイコの納税額の比率は1996年の36%から2001年の23%まで削減し、2001年の課税金額は6億ドル以内に収まる」とインタビューで答えている。ただし実際には7億5,400万ドルを納税額として、その中の6億2,900万ドルは米国以外の国へ納税。2001年の収入のうち75%は、米国の35%課税率以外の国からの収入となっている。

「企業の強欲さ」を受け入れた「米国社会全体のモラル低下に関する無関心」

コズロウスキーは、その悪役俳優もどきのコワモテの顔が象徴するように(彼の顔に対するコメントは私見ですが、大多数の人は同意してくれています)、1990年代後半の「企業経営者たちの強欲さ」のポスターチャイルドとして扱われています。ただそれを許していたのは、1990年代後半の「アメリカの企業社会全体のモラルの低下」であり、彼を含めて多くのトップ経営者たちの脱税、横領、会計操作など、現在大きな問題となっている「white- collar crime(ホワイトカラー・クライム)」を生む温床としての役割を担いました。さらに、こうした「企業の強欲さ」に対する「パブリックの無関心さ」は、「汚染された価値観」のように、当時の米国社会全体に広く静かに広がっていったような気がします。

「消費こそ米国経済の原動力」

現在アメリカは、ホリディシーズンが終わり、アフタークリスマス狙いのバーゲンハンターが忙しい時ですが、上述のコズロウスキーの買い物に限らず、アメリカ人のショッピング好きはとどまるところを知りません(そういう私も、つい40%のSavingという表示に目がくらみ、必要のないジャケットを購入してしまいました。アメリカでは必ず "セーブ"という言葉を使って、無駄遣いをしたという罪悪感を、ポジティブな心理状態に変えてくれます)。米国の経済は、ここベイエリアの企業も含めて、業績回復により年末から株式市場の上昇ムードが膨らんでおり**、「消費こそ米国経済の原動力」と信じるキリギリス型思考のアメリカの消費傾向は、かなりの速度で回復基調です。

** 2003年12月31日の株価指標

  • ダウジョーンズの平均指標:25.3%アップ(1996年以来の最高年間上昇率)の10,453.92ポイント

  • ナスダック指標:50%アップ(1999年以来の最高年間上昇率)の2,003.37ポイント

  • S & P500指標:26.4%アップ(1998年以来の最高年間上昇率)の1,111.92ポイント

** ベイエリア企業のパフォーマンス株価ランキング25

企業名
2003年12月31日の終値($)
2003年の還元率(%)
Rambus
30.70
344
Genentech
93.57
185
Yahoo
45.03
175
National Semi
39.41
165
E-Trade
12.65
162
Veritas Software
37.02
138
Advanced Micro
14.90
134
Intel
32.05
106
VeriSign
16.30
104
PG&E
27.77
101
Electronic Arts
47.68
92
EBay
64.61
90
Cisco
24.23
84
Providian Financial
11.64
80
Applied Materials
22.44
73
Sybase
20.58
56
Chiron
56.98
51
Gap
23.21
50
Apple Computer
21.37
49
Sun Microsystems
4.47
43
Hewlett-Packard
22.97
32
ChevronTexaco
86.39
30
Wells Fargo
58.89
26
PeopleSoft
22.79
25
Oracle
13.23
22
Source: FastSet Research Systems, Yahoo Finance at San Francisco Chronicle 01/01/2004

キリギリス型の消費思考から抜け出せないアメリカ人

ただし、その消費によって生み出される負債額は年々上昇しており、実際に2003年の10月時点で、消費者の負債額は1兆9,800億ドルと発表され、米国世帯あたりおよそ1万8,700ドルの負債を抱える計算になります。現在のクレジットカードの負債額は7,350億ドル、世帯あたり7,000ドルの負債がある計算になります。このうち40%のカード保持者は、全額を毎月返済していますが、残りの60%はミニマムバランスなどの分割支払いによって負債返済をしていることになります。NPO団体のNovadebt credit counseling service(ノーバデット・クレジット・カウンセリング・サービス)のCEOのJoel Greenberg(ジョエル・グリーンバーグ)は、「1990年代の不合理な繁栄は株式市場だけでなく、アメリカ社会全体に行き渡った。アメリカ人は驚愕すべき消費者となり、さらに哀れな節約者となった」と表現しています。

価値観の転換:「クレジットカード国家アメリカ」

こうした負債の増加を危惧するNPOのConsolidated Credit Counseling Services(コンソリデイト・クレジット・カウンセリング・サービス)の社長Howard Dvorkin(ハワード・デュヴォルキン)は、「大恐慌時代を経験した世代が徐々に消えていく中、我々は彼らの価値観を失いつつある。米国社会のすべての世代が、"倹約と注意深い消費"という、米国を偉大な国に創りあげた大切な要素について、何も知らない世代になりつつある」と、米国社会の価値観の転換に関して、警鐘を鳴らしています。この負債増加の理由は、1980年代に始まった金融機関の安易なクレジットカード発行と無資格ローン対象者への貸し出しにあると、Rochester Institute of Technology(ロチェスター・インスティチュート・テクノロジー)の社会学教授Robert D. Manning(ロバート・D・マニング)は、著書「Credit Card Nation -- The Consequences of America's Addiction to Credit(クレジットカード国家‐アメリカのクレジット中毒による影響)」で、指摘しています。またそれは同時に、「自分たちは、前世代(両親)よりもより良い暮らしをすることを期待されており、またその資格もある。またそれを銀行が助けてくれる」という、従来になかった価値観を身につけたことが、負債に対する寛容性を促進したと分析しています(By Eileen Alt Powell, AP Business Writer 01/06/2004)。

リファイナンスブーム

テックバブル終焉後の米国経済の低迷化で、唯一の原動力として経済の3分の2を占める個人消費は、キリギリス型思考ゆえに何とか落ち込みを最低得限度で支えてきました。その状況下で主役の役目を果たしていたのが、住宅ローンのリファイナンスです。2001年から2003年にかけて、米連邦準備理事会(FRB)による金利の抑制により、米国での低利の住宅長期ローンの買い替えは一種のブームと化しました。多くの住宅保有者は、住宅をキャッシュマシン代わりに使い、リファイナンスして、負債を払う、あるいは車、家電、家具などさまざまな大型消費財を購入して、危険なバランスの中で、消費生活をエンジョイするという現状を作り出しました。現在の米国世帯は、税引き後の収入のうち18.1%を負債(住宅ローンを含む)の支払いにあてており、1996年以来毎年100万件以上の個人消費者倒産数を計上しています。リファイナンスできる富裕層は、より良い消費生活を送り恩恵を受けることが可能ですが、資産を持たない低所得者層のクレジットカードの負債返済や個人倒産の問題は大きくなりつつあります。

時限爆弾化する米国人のポジティブ思考と負債とのバランス

経済学者のSung Won Sohn(サング・ウォン・ション)は、「経済成長を続けている限り、こうした米国消費者のポジティブな態度は、成長の原動力として働くのでOKと言える。ただし、長期的な視野に立つと、経済の急低下あるいは金利の急上昇など、あるポイントに差し掛かると、これは時限爆弾のように働く可能性がある」と言っています。これは正論ですし、多分この問題の顕在化はある次期に起こると思います。ただし、上述したデュヴォルキンやマニングが指摘するように、世代や価値観の転換によって「Thrift(倹約)& Careful spending(注意深い消費)」という言葉(価値観)を消失してしまった現在の米国人に、その時限爆弾の恐ろしさが想像できるのかと考えると、難しいというのが私の実感です。

キリギリスを見つめるサイレント・マイノリティの私

第2次世界大戦後のベビーブーム時に生まれて、現在消費やハイライフを謳歌するBaby Boomers(ブーマーズ)や、ブーマーズの影として成長したGeneration X(ジェネレーションX)、ブーマーズの子供で次世代の消費者として期待されるGeneration Y(ジェネレーションY)が、Veterans(ベテランズ:大恐慌と第2次世界大戦経験世代)の味わった社会の仕組みの崩壊を実感できるかは、はなはだ疑問の余地が残るところです。日本の団塊の世代の下の世代で、サイレント・マイノリティとして育った私は(1956年生まれ)、資源がない日本で、親から節約を大事な価値観として教えられました。豊かなこのアメリカで、そんな私がこの時限爆弾の行方を見つめる証言者になりそうです。


Columnsページへ戻る



大柴ひさみ (Hisami Ohshiba)

1979年外資系広告代理店電通ヤングアンドルビカム(DY&R)に入社、外資系企業の広告マーケティングを16年間担当。1995年にカリフォルニアに移住し、米国大手広告代理店やダイレクトマーケティングの会社勤務などを経た後、1998年2月JaM Japan Marketing(http://www.jamjapan.com/jp/)を設立。2001年1月ビジネス拡大のために、JaM Japan MarketingをLLCとして組織変更する。海外市場進出を目指す日米企業を対象に、クロスカルチャーなナレッジをベースにマーケティング戦略の開発立案、市場調査分析、広告PR、ローカリゼーションを含むコンサルティング活動を提供。講演・執筆活動も多く手がけている。2003年2月初の書籍「ひさみの冒険」がひつじ書房より発行 (http://www.hisami.com)。ご意見・ご質問はhisami@jamjapan.comまで


Copyright c 2004 JaM Japan Marketing LLC, All Rights Reserved 記事・写真の無断転載を禁じます